敗者に値する痛恨のミスを犯し、フランスに敗れ去ったドイツ

ユーロ2016の準決勝、ヨアヒム・レーヴがこのフランス戦でどんな戦術と選手を用いてくるかは国民的な議論に発展したが、ここでもレーヴは新たな4-3-3のシステムを用い、その中盤にシュバインシュタイガー、クロースに加え、エムレ・チャンというここまで出場機会のなかった若手を抜擢するという驚きの一手を繰り出してきた。シュバインシュタイガーを中盤の底に据えて全体を管理させ、やや右よりのチャンが主に守備のパートを受け持ち、やや左気味のクロースがパスを散らすというシステムだ。

そしておそらく昨日ほどドンピシャでレーヴの戦術と選手起用がはまった試合はなかったと言えるくらい、前半のドイツは今大会最高のパフォーマンスを見せた。フランスは開始早々こそ激しいプレスをかけドイツを押し込む。予想通りフランスはドイツに尻込みはしないと言わんばかりに前に出ようと試みた。しかし、開始10分もするとドイツが圧倒的に中盤を支配し始める。攻守に個々の能力に頼ったプレーをするフランスを尻目にドイツの中盤の選手たちはこれまでにないくらいのスペースを獲得し躍動した。

この光景は、私に2014年のW杯ブラジル戦を思い起こさせるほどドイツは一方的に試合を支配し、前半は10分以降殆どの時間帯がフランス陣内で行われた。これだけ攻めて得点できないのは嫌な雰囲気ではあったが、そのうちボールを追いかけまわすフランスは疲れ果てて攻めることもままならなくなるだろうと比較的楽観視していた。

しかし、前半のロスタイムに事件は起こった。前半最後のアクションとなるであろうフランスのコーナーキックからシュバインシュタイガーがまさかのハンドでPKを献上した。マークしていた選手にボールが入り、僅かに出足が遅れてしまったことで思わず手を出してしまった感がある。このあたりが怪我でリーグ戦に出場していなかった影響が出てしまったのかもしれない。年齢的にもややフィジカル能力も落ちている。

そして、これはそれまでの試合展開、時間帯からいってまさに悪夢のような事件だった。そして、このPKはグリーズマンが落ち着いて決めてフランスが思わぬ形で先制することとなる。エジルは苛立ちのあまりボールをスタンドに蹴り込みイエローカードを喰らい、ヨアヒム・レーヴは何人かの怒りの収まらない選手をなだめた。イタリア戦に引き続きの信じられないような失策に言葉が見つからない。

後半は気を取り直して行きたいところだが、ドイツから思わぬ形で1点をプレゼントされたフランスはすっかり落ち着きを取り戻し守備に専念しはじめた。逆にドイツはあの馬鹿げたハンドのショックを払拭し切れないのか、集中力を欠いたプレーが目立つようになり思うようにチャンスを得ることができない。途中出場のゲッツェは完全な透明人間と化しており、守備の要のボアテングが負傷のため交代という不運も重なると、1点差ながら負けムードが漂いはじめる。すると案の定、自陣のペナルティーエリア内での無謀なパスから大ピンチを招きこれを再びグリーズマンに決められて勝負あった。

私は今大会のドイツの浮沈はヨアヒム・レーヴの采配に左右されるだろうと踏んでいたが、実際にはドイツの沈没はあまりにも予想外の個人のミスによるものだった。イタリア戦は運の良さで助かったが、さすがに2度目も助けてくれるほど虫の良い話はないと言うことだ。現在メディアにおいても敗因の分析が為されており、そこにはやはり、ドイツにはゴメス以外のセンターフォワードがいなかった、つまり決定力不足が敗因であるという論調が目立つ。確かにそれは間違ってはいない。FWがいなかったことはドイツのチームとしての弱点だった。この試合FWとして先発したトーマス・ミュラーは動きすぎて相手DFをゴール前に引き付けることが出来なかった。しかし、マリオ・ゲッツェでのゼロトップの失敗は既に明らかで、現在のメンバーでFWが出来るのはミュラーしかいない。

しかし、忘れてはならないのはこれは他国から見れば極めて贅沢な問題であるということだ。ドイツは完璧ではなかったが、他チームと比較すれば今大会ドイツほど個々の選手のレベルの高さ、選手層に加え、組織的、戦術的に柔軟で完成されたチームは見当たらない。私はヨアヒム・レーヴは今大会、見事な仕事をしたと思う。チームとしてドイツが見せてくれたサッカーは総じて言えばファンの私から見ておおむね納得いくものだ。そして、彼自身にもおそらくの大会を制する事が出来る勝算があったはずだ。

惜しむらくは、強豪国相手に普通では考えられないような個人レベルのミスが起こってしまったことであり、そしてそれは敗者に値するに十分なものであったということだ。なにやら悔しさというより、虚しさの残る敗戦でドイツのユーロ2016は終焉を迎えることになった。

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