ドイツサッカーの伝説となっている、ジョバンニ・トラパットーニの大演説

この会見が伝説に残るのは、常識では考えられない程の身振り手振りを交えた感情の爆発とその言葉、その真剣さが伝わってくる一方で、トラパットーニの壊れたドイツ語とイタリア風のアクセントが、ドイツ人にとってユーモラスに響くのがあるだろう。

特に、”schwach wie eine Flasche leer”=「空き瓶みたいにダメ」、”Was erlauben Strunz?”=「シュトルンツに何が許される?」、そして最後の”Ich habe fertig”=「以上だ」については、世間でもてはやされる流行語になった。この”Ich habe fertig”に関しては、ドイツ語初級者の典型的な間違いとして、私が通った語学学校でも授業で取り上げられた。正しくは”Ich bin fertig”である。

また、この会見で槍玉に挙げられたバスラー、ショル、シュトルンツのうち、前者の2名は既にトラパットーニを公に批判していたので、ここでトラパットーニが反論を述べる事に驚きはない。しかし、シュトルンツに関しては怪我と言う不運に見舞われた状況であり、いきなりこのようなぶっ飛んだ記者会見でその名前が取り上げられたのは、本人を含めて世間に非常に驚きを持って受け止められた。

トーマス・シュトルンツは1990年代後半に活躍したMFだったと記憶している。主に右のWBでプレーしており、1996年にはドイツ代表のメンバーとしてEURO96で優勝した。人間的にもアクが強く華やかなテクニシャンでもあるショルやバスラーと比べると、シュトルンツは極めて地味な選手で知名度もかなり低かった。しかし、ここで仕事もろくにしないで大金を稼ぐ甘やかされたサッカー選手として、監督から怒りをぶちまけられた事に対して非常に辛かったと述べている。

しかし、翌シーズン復活したシュトルンツは1998年に再びドイツ代表にも復帰したことで、このネガティブなイメージを払拭する事に成功した。それどころか、観衆はシュトルンツがボールを持つたびに当時のトラパットーニの”Strunz!”という叫び声を真似するようになっており、その知名度は大幅にに上がっていた。この事に対してシュトルンツ本人も結果としてポジティブに受け止めていると後のインタビューで述べていた。

最終的にこのシーズンFCバイエルンはチャンピンオンズリーグでも準々決勝でドルトムントに敗れ、ブンデスリーガもそのままFCカイザースラウテルンに振り切られ2位に終わり、トラパットーニはチームを去った。世界で最も成功した監督の一人だが、FCバイエルンでは思った程の成績を残す事は出来なかった。

しかし、この大演説はもはやドイツサッカーの伝説になっており、誰もがトラパットーニと言えば、この記者会見を思い出すだろう。トラパットーニ自身も18年後の2016年にこの時の”Ich habe fertig”をもじった”Ich habe noch nicht fertig”=「私はまだ終わっていない」というタイトルで本を出している。現在79歳となった本人にとっても忘れ得ない体験だった事だろう。

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