ドイツのキャプテン像を変えたフィリップ・ラーム

土曜日ブンデスリーガ最終節が行われ、既に今シーズン限りでの引退を表明していたフィリップ・ラームが現役生活に終止符を打った。ラームの選手としての偉大さは今更言うまでもない。その実力と実績からいえば2000年代ドイツ最高の選手である事に疑いの余地はなく、それ以前を見ても、選手としてベッケンバウアーやマテウスと肩を並べる伝説的な存在といっても遜色ないだろう。

そのラームについてもう一つ言及しておきたいのが、FCバイエルンとドイツ代表のキャプテンを務め、そこでドイツにおける伝統的なキャプテン像を変えた事だ。

私の知る限り、伝統的にドイツのキャプテンとはいわゆる「闘将」と言う言葉がピッタリの強面でチームの中心に座り、見方を鼓舞、指示し、チームのヒエラルキーの頂点に立つ存在だった。マテウスやカーン、バラックなどはその最たる例だろう。

ラームはこれらのキャプテン像とは180度異なるタイプのキャプテンとして存在を確立する事に成功した。つまり、チームメイトに上から目線で従わせるのではなく、彼らと対等な立場としてコミュニケーションをとり、それぞれの選手の長所と短所を把握しつつ責任を分担させると言うスタイルだ。そしてラームは古いキャプテン像に対しインタビューなどではっきりと嫌悪感も示している。

そのラームの意思がはっきりと行動に現れたのが、2010年にバラックからキャプテンの座を奪い取った事件であろう。当時バラックが怪我でチームを離脱中に代理としてキャプテンを務めていたラームは、インタビューにおいてキャプテンの座をバラックに「自主的には返却したくない」と事実上拒否した。

表向きは極めて政治的な発言だったとはいえ、当時の状況や内容を考えればチーム内のヒエラルキーにおいて下克上の意図が見えるもので、これは当時キャプテンとしてアンタッチャブルな存在だったバラックの逆鱗に触れ世間に物議を醸した。

この時の事をラームは現在になって回想しているが、ラームはこの時自分の新しいキャプテンのスタイルが若い選手に歓迎されている事を確信し、自然と本能的に出た発言だと述べている。この後、監督のレーヴはバラックを代表に呼ぶことはせず、ラームがそのままキャプテンの座に留まることになった。

この件をバラックは相当根に持っているらしく、未だにラームをこの件で批判するコメントを出している。確かにラームのあのタイミングでの発言は自然に口から出たとしてもややアンフェアであり、バラックの言い分は理解できなくも無い。

しかし、ラームは様々な批判を受けながらも自身の新しいキャプテンのスタイルをチームに定着させ、クラブでは2013年にCLを制し、代表としては2014年にはW杯を制した。圧倒的な実力を備えながら、国際的には万年2位にしかなれなかったバラックとはここで大きな差がついた。

もちろん、バラックの時代とは異なり、ワールドクラスの実力を持ったチームメイトに恵まれた面もあるだろう。しかし、これだけ実力のある選手が揃いながら、チーム内の揉め事や派閥争いなどのトラブルを殆ど聞くことが無く、チームが長期間まとまり結果を残した事は特筆すべきだと思う。キャプテンがラームだからこそ出来たチーム内のマネジメントだと考える。

残念ながらバラックには気の毒だが、事実上このキャプテンの交代からドイツ代表の新しい黄金期が始まったと言っても過言でない。ラームのような選手としての実力、政治力、リーダシップを兼ね備えた選手は今後数十年出てこないであろう。