新生ドイツ代表、後半巻き返しセルビアと引き分ける

およそ2週間前に公になったミュラー、フンメルス、ボアテングのドイツ代表構想外の波紋は予想以上に大きくレーヴも対応に追われたが、当然ながらそれが変わる事はない。水曜日にはいわば新生ドイツ代表による最初のテストマッチが行われた。相手はセルビアである。

若手とは言っても、キミッヒ、ズューレ、ヴェルナー、サネなどは既にW杯やEUROも経験済みであり、これにノイアー、ロイス、ギュンドアン、クロースのベテランも加わるので全く新しいわけでもなく、決して悪い面子でもない。注目は寧ろヨアヒム・レーヴがどのような戦術で臨むかだ。昨年の終盤、レーヴは中盤を支配する戦術から縦に速いカウンターを意図した戦術にスイッチし、フランス、オランダ相手に良い内容を見せた。

しかし今回、レーヴは再び優勝したブラジルW杯に近い4-3-3のシステムに回帰した。GKはノイアー、4バックは右からクロースターマン、ター、ズューレ、ハルステンベルクと言った比較的新しいメンバー。中盤の底にキミッヒ、その前にギュンドアン、ハーヴァーツの2人のパサーを配置。FWは両翼にサネ、ブラント、中央にヴェルナーというスピードのあるタイプを配置した。

自ら試合をコントロールし、引いた相手を崩す事を意図したスタイルであるが、FWにスピードのあるタイプを配置している事からわかる通り、縦への速さを意識した形に改良している。また、中央のター、ズューレの2人は両者とも屈強な1対1に強いタイプで、後方からのゲームの組み立てよりも相手のカウンターを防ぐ事を重視している事を窺わせる。

両サイドバックのクロースターマンとハルステンベルクは両者ともRBライプツィヒに所属する新戦力だ。ハーヴァーツはギュンドアンよりもよりゴールに近い位置で活きるエジルに近い左利き10番タイプだ。まずは試合を簡単に振り返る。

序盤はドイツが素早いパス回しからペースを掴んだが、徐々にその勢いは停滞し、攻めあぐねるようになる。一方セルビアは最初の攻撃でいきなり得点に成功する。コーナーキックの中途半端なクリアが中央でフリーのヨビッチへフワリと飛んでいき、これを頭で決められた。 一方的にボールを支配するが、相手にワンチャンスをモノにされる、昨年に良く見られた展開だ。

反撃したいドイツだが、総じて言えばかなり攻めあぐねている印象は拭えない。2度ほどあったヴェルナーの決定的チャンスも例によっての決定力不足で得点ならず、逆にカウンターからあわや2点目も失う大ピンチも迎えた。メンバーこそ若くはなったが、前半は昨年の悪い状態から全く進歩の見られない展開に非常に落胆させられた。

因みにこの日解説をしていたのは、日本代表の監督にも取り沙汰されたユルゲン・クリンスマンだった。久しぶりに見たら随分と老けた印象だったが、その異常にポジティブなコメントは相変わらずである。仮にヨアヒム・レーヴが更迭されるような事態になれば、再びクリンスマンの再投入という線もあり得るだろう。良くも悪くも、レーヴのちょっとジメッとした雰囲気は改善される事は間違いない。

話を試合に戻す。前半苦しんだドイツだが、後半に巻き返すことに成功した。きっかけはマルコ・ロイスの投入である。

ハフェルツに代わりトップ下の位置に入ったロイスはそのテクニックで狭い位置でもボールを失わないだけでなく、アイデアも豊富で頭の回転も速い。更に自らがゴール前の危険な位置に飛び出すなどフィニッシャーにもなれる。セルビア守備陣がこのロイスを捕まえきれず後手に回るようになるとドイツの攻撃は一気に活性化し、チャンスを次々と創出した。

そして69分、ペナルティーエリア内やや左、巧みなトラップでボールを受けたロイスはすぐさま中央のゴレツカに折り返し、ゴレツカはブロックに来たセルビアDFを冷静にかわして狙いすましたシュートを決めた。内容から言えば順当すぎる同点弾である。

この後もドイツは攻め込み、特にサネはその圧倒的なスピードとドリブルで観衆を沸かせるが、結局勝ち越し点は奪えないまま試合は1-1で終了した。

全体的に見れば、前半は昨年のダメなドイツだったが、後半はかなり巻き返して希望を持たせる内容だったと言えるだろう。もっとも、若手も多くサッカー自体はかなり粗削りになったという印象だ。結果についてもセルビアが前半で追加点を奪う決定的チャンスを外してくれたお陰だとも言える。

確かにドイツも多くの決定的チャンスを外したが、もはやドイツの決定力不足はお約束なので計算に入れておく必要がある。このテーマについてはこれまで何度も指摘し、巷でも指摘されている事なので今更深入りはしない。選手の育成を含めた長期的な視点で解決する必要がある。

また、この後半の巻き返しはとりわけマルコ・ロイスというベテランの活躍に因るところが大きい。現状やはり若手だけで戦うのは厳しいという事だ。ロイスはドルトムントで既に絶対的な攻撃の核だが、間違いなくドイツ代表でも欠かせない選手になる。少なくとも来年のEUROは31歳でもロイスの力が必要だ。この選手に関しては怪我だけが心配だと言っておく。

最後に、久しぶりに代表の試合に出場したギュンドアンについて指摘しておきたい。この日のギュンドアンは中盤で攻撃の起点となり、後半は特にそのパスセンスを如何なく発揮した。現在プレミアリーグで首位をキープするマンチェスター・Cの中心選手にまで成長しただけある。最近パッとしないクロースに代わって代表のスタメンに定着する可能性はかなり高いと見る。

そしてもう一つ、ギュンドアンは後半に交代したノイアーからキャプテンマークを引き継いだ。昨年のW杯直前、ギュンドアンはエジルと共にトルコ大統領エルドアンの選挙活動を支援したという誤解を招く行為により国内で痛烈な避難を浴びた。この騒動は余りにも大きく、国内の雰囲気を著しく害し、当のギュンドアンも非常に厳しい立場に立たされた。

しかし、ギュンドアンは批判を浴びながらも自らの言葉で釈明し、一部の差別的な批判に対しては断固とした態度を見せ騒動を収束させた。そして、今後もはっきりとドイツ代表としてプレーする意思を明確にした。我々一般人が考えられないような精神的にどん底の状況から、本当に良く復活したと言えるだろう。誰があの事件のあと、ギュンドアンがドイツ代表のキャプテンとしてピッチに立つ事を想像しただろうか。

このキャプテンマークはノイアーがハーフタイムでギュンドアンに渡したもので、ギュンドアン自身もこれは予想していなかったそうだ。しかし、ギュンドアンはこれを名誉に感じて受け取ったとの事だ。普通ならギュンドアンもチームでは最も経験豊富な選手の一人であり、全く特別な事ではないのだが、それまでの経緯を考えれば非常に意義ある事だと言える。このところゴタゴタ続きのドイツ代表において久しぶりの良い話だ。

さて、ドイツ代表は日曜日にEURO予選のオランダ戦を控えている。この日の試合を見る限りオランダの優位は動かないだろうが、若手主体のドイツがどこまで通用するか、非常に注目される。