今週のドイツの話題は言うまでもなくアメリカ大統領選挙である。個人的にアメリカ大統領選挙で思い出されるのは、2004年のジョージ・w・ブッシュvsジョン・ケリーの対決である。当時からドイツメディアは報道の中立などどこ吹く風と言わんばかりにブッシュを毛嫌いしていたが、それも虚しくブッシュが当選した。この直後に当時一人暮らしだった私の家に、兵隊がザクザクと歩く音を録音したイタズラ電話もかかってきたりした。
まあそんなことはどうでも良いが、ブッシュが理不尽なイラク戦争を強行した結果、中東情勢は大混乱に陥り、結果として大量の難民や野蛮なテロリストたちを生み出す結果となった。
更に印象に残っているのは4年前の前回の選挙である。ドイツでのトランプの嫌われようはイラク戦争を遂行したブッシュを完全に上回るもので、優に9割以上のドイツ人がヒラリー・クリントンの勝利を望んでいた。トランプが大統領になる事は誰も信じたくない現実でもあったのだが、結果は知っての通り、トランプがまさかの勝利を飾った。
その結果、ドイツとアメリカの関係は劇的に冷え込み、世界情勢は大いに混乱した。思い出すだけでもパリ協定の離脱、イラン核合意離脱、関税措置、駐留米軍の撤退などが上げられる。とりわけ、これらは突如一方的に通告された感のあるもので、ドイツの政治家、関係者は著しく困惑した。いずれにしても、アメリカの大統領が誰になるかで、世界がどうなるか身に染みてわかると言うものである。
今回の選挙でもおよそ9割のドイツ国民がバイデンの勝利を望んでおり、トランプの再選を支持するのは殆どがポピュリスト政党AfDの支持者であった。確かにトランプの差別的、一方的、分断を煽る発言、陰謀論、その政治手法などはまさにドイツのAfDと共通するものがある。このような連中が世界的に幅を利かせている事態は非常に由々しき事であり、トランプの再選は長期的に見て害悪でしかないだろう。
しかし昨日バイデンの勝利が確定したことで、ドイツの主要な政治家は控えめながら安堵が感じられるコメントを出した。またメディアも今回は前回の教訓もあってか、露骨な反トランプは避けていたが、昨日はさすがに喜びを隠しきれない様子で、7時のZDFニュース”Heute”でZDFリポーターの明るい表情が印象に残っている。
昨日は更にZDFの編集長が自ら出演しバイデンの勝利にコメントするなど、やはり異例の注目度、扱いとなる米大統領選挙だった。おそらく、これ程までに人々を分断し、感情的にさせた選挙はなかったであろう。
トランプ側はこの期に及んで得意の陰謀論を持ち出して法廷闘争に出るようだが、常識的に考えればこのような根拠のない訴えが認められる事はないだろう。ポピュリストの連中にとって自分に都合の悪い事実は常に誰かの陰謀か不正であるのは、今に始まった事ではない。
また、私はこのご時世でマスクなしで集会に参加し密集するトランプの支持者や取り巻きを見て驚かされた。連中にしてみれば新型コロナは中国の陰謀らしいが、まさにこのような行為が実際にはウィルスを巻き散らしていると言えるだろう。
これらの連中が敗北を認める事はないだろうが、史上稀にみる接戦とはいえバイデンが過半数を獲得し勝利した事はドイツにとってひとまず安堵する結果となり、個人的にも朗報だと言っておきたい。これをきっかけに冷え込んだ米独関係が改善されると同時に、世界的にポピュリズムの勢力が弱体化する事を期待する。