ドイツ最大の労働組合IGメタル、週4日労働制を提案する

現在ドイツのフルタイム労働時間は週5日、1日8時間である。これはおそらく、どこの先進国も概ね同じであり、残業の多い日本でも建前は同様の労働時間が設定されている筈である。しかしこの程、ドイツ最大の労働組合であるIGメタルが今回のコロナ禍を機に週4日労働制度を提案して話題になっている。

大抵、ドイツの労働組合の要求は私ら日本人からすれば、かなりえげつない。法外な給料アップの要求やストライキで雇用者から譲歩を引き出すイメージがある。そこには最近日本でよく聞く「忖度」と言うものは存在しない。とれるものを取れるだけ取る、いや「むしり取る」と言った方が正しいだろう。私はこの厚顔無恥な要求をニュースで聞くたびに辟易するのだが、ドイツが日本と異なり人間的な労働環境を維持しているのは、この強力な労働組合の存在あることも認識している。

日本も本気で長時間労働を改善したければ、言い方は悪いが、労働組合や左派政党が、徒党を組んで雇用者側の喉元にナイフを突きつけるくらいの重圧を与える必要があるかもしれない。雇用者とて可能な限り労働者をこき使いたいのもまた事実だ。それは日本だろうが、欧米だろうが変わらない。

いきなり話が横道にそれた。しかし、私は今回も例によって無茶苦茶な要求をIGメタルがぶち上げたと思ったが、今回はそうでもない。週4日の労働で肝心の給料は「部分的に調整」する、つまりある程度は減らされる事が前提になる。労働相のハイルもこの提案を検討する旨を述べた。

確かに、少なくとも現在のコロナ禍においてこの案は一笑に付すような馬鹿げた話ではないように思える。新型コロナの影響でドイツの今年4-6月の経済成長率はマイナス10,1%にまで落ち込んだ。国は休業補償などで失業者の大量発生を防ぐ施策を実施しているが、国の財源も底なしではない。企業の倒産連鎖は今年の9月以降から本格化されると言われている。

週4日労働のもうひとつの理由として上げられているのが、社会のデジタル化や構造改革の影響である。例えば、自動車業界などはそもそもコロナ禍の前からディーゼルから電気自動車への転換、環境問題による都市部からの車の排除など、急激な変化の波に晒されていた。そこにコロナのダブルパンチでかなり厳しい状況であろう。

そもそも近い将来にはデジタル化によって多くの業務が人工知能によって代用され、人間の労働力は余分になるという可能性がある。その場合現在の週5日労働を維持すれば、単純に考えれば多くの人が職を失い、社会格差も更に広がる。その代わりに皆が週に1日労働時間を減らす事で、そのようなリスクを軽減できる。

そして肝心の国民もYouGovのアンケート調査によると、全体の61%がIGメタルの提案した週4日労働に肯定的な意見を持っている事が明らかになっている。つまり、少々収入が減ってでも、1日余計に休みが欲しいと思っている人が多いという事だ。コロナ禍とは言え、現在のドイツが経済的に豊かである事を象徴しているようにも思える。

もっとも、長いスパンでみればコロナによる現在の特殊な状況が永遠に続く訳ではない。またデジタル化によって必ずしも人間の仕事が減るとは決まっている訳ではなく、それによって経済が成長すれば将来的に一人頭の仕事量は増える。雇う側にしても同じ仕事量で平凡な人間を何人も雇うよりは、優秀な人間を少数雇った方が効率も良い。

個人的には、コロナ禍の特例としてはともかく、週4日労働がそれほど素晴らしい事だとは思っていない。より短い労働時間で、経済的な豊かさを維持するのは簡単な事でないからだ。少なくとも、何もせずに休みだけ増えると浮かれているのであれば、とんでもないシッペ返しを喰らうだろう。