ポピュリズム政党AfD、極右派を巡る権力闘争で内紛に陥る

新型コロナが人々の生活に多大な影響を及ぼしている中、各政党はざまざまな主張で国民の支持を得ようと躍起になっている。しかし、その一方でポピュリズム政党AfDがまるっきり存在感がなくなった。AfDは難民問題をきっかけに数年前は一時20%に届くかという支持率を記録したが、その支持率は10%程度にまで落ちた。

これも当然であろう。私から言わせればAfDの主張はほぼ反難民、或いは反イスラム、反外国人という特定の主張に特化しており、その他のテーマでは変な陰謀論などがメインで、新型コロナという国家の一大事において国民を助ける具体的なプランなど持っていない。最近になってロックダウンに対するデモを行うようになったくらいである。

そのAfDであるが、最近は穏健派と極右派による内紛状況に陥り世間に物議を醸している。AfDはかなり右翼的なポピュリズム政党であるものの、取り敢えずドイツで禁止されている「極右」政党とは一線を画していることになっている。しかし、党内にはやたらとナチスを意識したり、極右勢力と繋がりをもつ筋金入りの極右政治家も存在する。

そしてこのAfD極右勢力のボス格に当たるのが、既に紹介した事のあるビィエルン・ヘッケと、現在ブランデンブルク州AfDのトップであるアンドレアス・カルビッツである。ヘッケがこのAfD極右勢力の顔だとするならば、カルビッツは裏で糸を引く黒幕と形容される事が多い。インテリっぽい金縁のメガネを欠けた一方でスキンヘッドにがっしりとした体格と、いかにもそれっぽい風貌が特徴である。

両者は党内で”Der Flügel”という極右政治家のグループを率いており、党内に強い影響力を持っていたが、つい最近このグループは国から公式に極右団体とみなされて解体を命じられた。因みに”Flügel”とは「翼」の意味であり、ここでは右翼とか左翼とかの「翼」である。

そして、現在の党首であるイェルク・モイテンはこの機にカルビッツを突如党から除名とし、この極右勢力の排除を目論んだ。表向きの理由はカルビッツが入党した折に、現在では禁止されている別の極右団体の会員である事を黙っていたからだというものだ。

しかし、そもそもこのモイテンが主導したカルビッツ追放はそれを可能にする法的に十分な証拠が欠けていると言われており、カルビッツは当然ながら激しい抵抗を見せた。もう一人の極右勢力のボスであるビィエルン・ヘッケをはじめとした旧東ドイツのAfDグループは軒並みカルビッツ支持を表明し事態は泥沼化の様相を呈してきている。ここでカルビッツが逆転する事があれば、党首モイテンが党を去る事になると言われている。

モイテンは一般的にFDPに近い経済リベラルとされており、AfDの中でもどちらかと言えば反外国人などの過激な発言で世間に物議を醸す事は少ない。当たり前だが、ナチスを礼賛するような極右勢力よりは多少まともには見える。

確かにヘッケやカルビッツのような極右政治家の存在でAfDは国からも目をつけられており、難民問題も下火になった事で支持率も随分と下がった。これを機に目の上のタンコブでもあった極右勢力の一掃を図るのも結構な事だろう。正しくルールに則ってそれを実現できるのであれば、その方が世の中の為にも良い。

しかし、コロナ禍も長期戦となり国民の生活も苦しい中、文句を言うだけでろくなアイデアも出さず、大っぴらに権力闘争に明け暮れているのがAfDという政党である。このような連中がそれなりの支持を集め、現在は現在連邦議会において野党の第一勢力でもあるのは非常に由々しき事だと言っておく。まあ、そんなAfDもようやく化けの皮が剥がれつつある。来年の連邦議会選挙では5%以下の得票率で議会から締め出される事が最も望ましいだろう。