一時的に再生産数「R」が1を超えたと報道があったが、再び0,88に下がっている。人の動きが増えている以上、この数値が劇的に下がる事はおそらく無い。今後も1前後を推移していくと見られており、このまま新型コロナと共存しながら経済活動は徐々に再開されていく。本日からは国境の取締りが緩和される。
しかし、経済活動が徐々に再開され、このコロナ禍が過ぎ去ったあと世の中がどのように変わるのか、にわかには想像がつかない。とりわけ生活に直結する事項として現在少々不安になっているのが、今後長期的にはインフレが来るかもしれないと言われている事である。
特に私の場合は賃貸住居契約が物価連動型になっており、一般的な物価が上がれば家賃まで上がる事になる。これは現在、昨今の不動産価格の高騰から通常の賃貸契約では家賃の値上げを事実上不可能にする政策が適用されている為、多くの不動産業者は物価連動型の賃貸契約(Indexmiete)を要求してくるからだ。
この契約にサインをするのは非常に抵抗があったが、そんな事にケチをつけていたら私のような庶民がミュンヘンに住む事など不可能だ。これまでの常識から言えば物価は毎年1,5%〜2%程度上がるのは計算に入っていた。
そこで今回のコロナ禍であるが、当初は需要の低下により物価が下がってくれる事を期待していた。事実、現在ドイツのインフレ率は食料品の価格が上がっている一方で、原油価格が異常に低下している為かなり抑えられている。更にロックダウンにより多くの人がに家に閉じ籠もった上に、短時間労働で収入が減り購買意欲も低いので、生鮮食料品をはじめとした生活必需品以外、需要も当然ながら減る。
しかし、今回のコロナ禍は前回の大恐慌リーマンショックとは異なり、国民の懐事情や購買意欲だけでなく、国際的な供給体制にも大打撃を与えている。これまでは海外から安い品物が簡単に入って来たが、この常識が今後通用しなくなる可能性がある。今後は落ち込んだ経済を回復されるために政府は何らかの景気対策をするであろうし、もともと酷かったイタリアやスペインなどの南欧諸国の財政は今回のコロナ禍で更に悪化しており、ドイツはこれも何らかの形で援助する必要がある。
これまでの常識的に考えれば、国はデフレになって不景気になり、会社が倒産して失業者が増えることを恐れている。そういう訳で、コロナ禍の後にインフレが来るのか、デフレが来るのかは議論になっているが、今後長期的にはインフレになると言われたほうが個人的には論理的に思える。
とりわけ、ドイツは1923年にハイパーインフレになった歴史があり、この前の1918年から20年にかけてスペイン風邪が襲っている。当時は第一次世界大戦中であり、最終的にはドイツはこれに敗れたので多額の賠償金を請求されている状況でもあった。無い袖を振って続けた戦争の金は戦時国債で賄われており、この金も国民に返さなけらばならない。政府は当然ながら金を刷りまくった結果、当時のドイツマルクの価値は暴落した。1923年6月に1440マルクだった1Lミルクの価格は、同年の12月には3600憶マルクにまで上昇した。
もちろん、ドイツはここ数年の好景気で財政状況は他国に比べれば健全だと言われており、戦時中だった当時とはもともと置かれていた状況は異なる。上記のような歴史の教訓からも、同じ失敗は繰り返さないだろう。だいたい、皆が心配している事は賢い人たちは把握しており、これまでは多かれ少なかれ何らかの対策を講じている。本当に世の中がやばい状況になったのは、今回の新型コロナ然り、誰も経験、或いは予想しないような事が起こったときである。もしかしたら、心配しすぎかもしれない。
しかし、何れにしても、あくまで庶民の立場で言わせてもらえれば、少なくとも以前のような異常な好景気などはもはや要らない。コロナ前の数年で何が起こったかと言えば、金持ちが更に金持ちになった割には、大多数の庶民は大したメリットもなかった。それどころか、家賃相場は暴騰し、道路は渋滞で溢れ、日常のストレスは僅かな経済的な豊かさを引き換えに劇的に増大した。はっきり言って、トリクルダウンなど馬鹿げている。今回のコロナ禍をきっかけに、行き過ぎた経済至上主義が見直されることを望んでいる。