サッカー元ドイツ代表シュルレ、29歳の若さで引退を決断する

現在ドルトムントに所属するアンドレ・シュルレの名前を最近聞くことが無かったが、昨日29歳という若さで引退を発表した。左ウィングを主戦場とするシュルレはドイツ代表で57試合に出場し22ゴールを上げており、主に2010年から2014年までドイツ代表のスーパーサブとして存在感を発揮した選手だった。

シュルレが頭角を現したのは2010/2011シーズン、所属するFSVマインツで15得点を挙げチームの5位躍進へ貢献した時だろう。この年にドイツ代表にも初招集されており、その後もシュルレは出場のチャンスを貰えばコンスタントに得点を挙げ続け代表に定着した。見た目はヒョロっとしており頼り無さそうに見えたが、物怖じせず果敢に1対1を挑む姿が印象に残っている。

このシュルレの特徴は何と言っても鋭いドリブルであろう。左サイドから中へ切り込み繰り出される右足のシュートに加え、そのスピードでサイドの奥深くへも侵入し相手の脅威となった。そのプレースタイルは、オランダ代表でFCバイエルンで長年にわたり活躍したアリエン・ロッベンの逆サイド版だと言える。シュルレのような得点力が高くかつ鋭いドリブラーはドイツ代表には少ないタイプであり、非常に重宝された。

シュルレのキャリアのピークは言うまでもなく2014年ブラジルW杯だろう。この大会シュルレはスーパーサブとして6試合に出場し3得点を挙げた。特にベスト16の延長でのアルジェリア戦ヒールキックでゴールへ流し込んだゴールは苦戦のドイツを救う貴重な得点となった。また、決勝アルゼンチン戦のマリオ・ゲッツェの決勝点を鋭いドリブルからのクロスでアシストしたのもシュルレだった。

そしてこれ以降、万年スーパーサブから脱却し、90分間通してチームの主軸として活躍できる選手になる事が当時のシュルレにとって次のステップでもあった。まだ24歳である。しかし、これ以降シュルレはクラブで干され気味となり、ドイツ代表も2017年を最後に招集されなくなってしまった。

あくまで私の評価から言えば、シュルレは90分間通してのチームの駆け引き、リズム、テンポに適応する事に難を抱えていた。私の中でシュルレという選手を象徴しているのが2014W杯の準決勝ブラジル戦である。この試合、ドイツは7-1と言う歴史的勝利を飾ったが、前半だけで5-0とリードしたドイツの6、7点目を決めたのが他でもないシュルレである。とりわけ、7点目は極めて難易度の高い鮮やかなゴールだった。

勿論これは決してケチをつけるような得点ではない。試合に出て結果を出すのがプロの仕事である。しかし、シュルレはそのスピードと得点力、高い技術の一方、とにかく「空気を読めない選手」という印象が強い。シュルレは試合展開や、対戦相手、時間、戦術如何に関わらずとにかくドリブル勝負を挑み、得点を狙う。それ以外に無いのだ。90分間通しては非常に使いにくい選手である事は容易に想像できた。

更にインタビューによると、シュルレはやはりサッカー界の巨大な重圧に耐えられなくなった旨を述べており、これが29歳の若さで引退した直接的な理由となった。何にせよ、好きな事でも、得意な事でも職業にすると言う事は非常に難儀な事だ。しかし、肥大化したサッカービジネスは余りにも大きな金が動き、時には政治的なテーマにもなる。その中で常に結果を求められるその重圧は我々凡人の想像を遥かに超えているだろう。

とはいえ、非常に技術、スピードに依存したプレースタイルの早熟型の選手ながら、モチベーションさえあればまだあと数年はブンデスリーガでもプレーできた筈だ。故に29歳での引退は非常に惜しまれると言っておきたい。願わくば今後も自らの経験を後進に伝え、第二の人生での成功を祈らせて頂く。