ドイツで賃貸住居を契約する際に注意しておくべきこと

ドイツ都市部での不動産価格の高騰はこれまでも紹介した。その上昇ペースは若干落ちついた感もあるが、都市部の賃貸住居料は依然として非常に高額だ。優良な物件を貸し出しに出せば、わずかな時間で1件に100人以上の応募者が来ると言われる。 応募者が外国人となれば殆どの場合応募しても返事すらない。

そういう訳で住居探しは困難を極める訳だが、現在のドイツ、特にミュンヘンをはじめとした都市部での住居探しで個人的に気に留めておいた方が良いと思われる事を書き残しておきたい。

まず、ここ最近再び”Mietpreisbremse”、直訳すれば「賃貸価格ブレーキ」と呼ばれる施策がミュンヘンでも復活し、賃貸価格上昇の抑制が期待されている。この”Mietpreisbremse”は数年前にいったん実施されたが、法律上欠陥があるもので無効になった。しかし、この程復活したものだ。

この施策の内容は割とシンプルだ。新しく貸し出す賃貸住居はその地域で相場とされる家賃(Ortsübliche Vergleichsmiete)の10%を越えてはならないというものである。この「相場」とされる家賃は極めて複雑な計算式で算出されるので、我々一般人が算出するのは困難である。しかし、これまでは新たに貸し出す場合、余裕で10%以上の金額が上乗せされていたので、広告を見る限り法外に高い貸し出し物件は確かに減った。

もっとも、新築、或いは最近改築された住居に関しては例外扱いとなる。まあ、新しい建物まで価格制限すれば、誰も新しい住居を作らなくなるので、これは当然だろう。

当然住居を借りた後も、貸主は家賃を値上げする可能性が残されているが、この値上げは少なくとも入居後15ヶ月は凍結される。また、これも先に上げたその土地の相場以上の家賃に上げてはならない。更にミュンヘンなどの特に価格が高騰している地域は、貸し出し後の家賃の値上げは3年以内で最大15%と言う制限がある。(その他の地域は20%)

つまり、新築や最近改築された住居を除けば、高くとも法外な価格で貸し出される賃貸住居は大幅に減る。また、入居後の極端な値上げもない。おそらく、ミュンヘンに関して言えば、新たに貸し出されている時点で、殆どの住居は既に「相場」以上の価格なので、一旦借りてしまえば長期間値上げは無いだろう。

もっとも、以上の事はこれまで普通だった、クラシックな賃貸住居契約の場合に言える事なので注意が必要だ。当然、不動産屋や貸主はこのルールの抜け道を持っている。それが、いわゆるインフレ連動型賃貸契約(Indexmiete)である。

この”Indexmiete”であるが、これは平たく言えば、賃貸料金がドイツ国内の消費者物価指数の上昇率と同じ分だけ毎年変動する可能性があるものだ。そして、この契約サインすれば、先に挙げた家賃の値上げ制限のルールは無効になり、貸主は1年ごとにインフレの分だけ家賃をあげる事が可能になる。

もちろんこれは、理論上このインフレ率がマイナス、つまりデフレになれば値下がりをする可能性を秘めたものでもあるが、昨今の情勢を見ればデフレなどあり得ない。つまりこの形の契約をすれば入居後も確実に家賃が上がると言う事だ。

もっとも、家主は毎年適切な時期に消費者物価指数などをチェックし、データや計算式などを示した書面で値上げの旨を借主に連絡しなければならない。これは面倒なので、この契約をしたからと言って自動的に値上げが来るわけではない。実際には、不動産屋に勧められてインフレ連動型契約をした貸主が、10年間値上げをしなかったという例もある。

そこでよくあるのが、インフレ率が一定の数値を越えたら値上げをするいう契約である。例えば、5%に設定すれば今の流れで行けば、1年でおよそ1,5-2%のインフレがあるとして、およそ3年後に一度値上げが来るというパターンだ。この場合、おそらく数年間は賃貸契約を解約できないというルール(Kündigungsausschluss)とセットになる事が予想される。

何れにしても、今後の傾向は明白だ。多くの不動産屋および貸主は、まずは「賃貸価格ブレーキ」のルールを潜り抜ける為に、古い住居は改築するだろう。そうすれば、相場よりも遥かに高い価格で貸し出すことができる。そして、更に賃貸後の値上げの可能性を確保するために、インフレ連動型の賃貸契約を結ぼうとする。

そして、このインフレ連動型の契約内容は、交渉も大詰めで契約書にサインをする段階で突如出現することもあるので、これはよく注意した方が良い。必ずしも”Indexmiete”とは書かれておらず、遠回しかつ難解な文言で書いてあるので、よく読んで理解しておく必要がある。

逆に言えば、現在のミュンヘンで常識的な価格の住居を賃貸したければ、改築されていない住居を、通常の賃貸契約で借りれば良いという事になる。しかし、これも長く住むなら必ずしも良いとは限らないので厄介だ。

何故なら、古くて熱効率の悪い家なら当然暖房や温水を多量に使うので、その費用が高くなるからだ。折しも、地球温暖化対策で、カーボンプライジングが実施され、ガスや石油の価格はこれまでよりも更に上がる。更に2026年までに石油による暖房システムは禁止されるので、これらの住居は確実に改築される。

その場合、改築費用の8%は住んでいる借主に転嫁される上に、その間一時的に住居は住めなくなる可能性があり、改築された後確実に家賃は上がる。これは6年間で最大1平方メートルあたり3ユーロとの制限があるが、100平方メートルの住居なら最大月300ユーロの上昇になる。これは決して小さくない。

そういう訳で、現在新たにドイツで賃貸契約をしたい場合、これらの事情を良く踏まえた上で行動するべきだ。もっとも、ミュンヘンなどの都市部は依然として異常な「貸し手市場」であることも忘れてはならない。渋っていたり、ウロウロ熟慮しているうちに、次の候補者に物件は取られてしまう。どんな状況でも即断即決できるように、しっかりとした準備をしておく事が重要だ。