明日から再び準ロックダウン措置であり、新型コロナに塗り潰されている2020年であるが、昨日めでたいニュースが発表された。かねてからドイツ最大の失敗プロジェクトとして世間の笑い種と化していたベルリン新空港が遂に開港に漕ぎ着けたのである。工事開始からは14年、当初の予定からは9年の遅延を経ての開港となる。費用総額は73億ユーロで、当初の3倍に膨れ上がった。
このベルリン新空港の建設にまつわるあり得ない失敗談は列挙に暇がない程で、長年の間ドイツ人の中でも格好のブラックジョークのネタとされてきた。とあるネットユーザーは”Niemand hat Absicht einen Flughafen zu eröffnen!”=「誰も空港など開くつもりはないのだ!」とツィッターで発言して礼賛され、このプリントTシャツも販売されている。
これはベルリンの壁建設の際に旧東ドイツ政治家ウルブリヒトが発した”Niemand hat Absicht eine Mauer zu errichten”=「誰も壁を建設するつもりはない」という名言をもじったもので、おそらくベルリン新空港に関する最も有名なブラックジョークだろう。ルフトハンザSEOのカルステン・シュポーアもこの開港に際し「未だに信じられない」とコメントを発するなど、この開港でさえ冗談と思わせる程難航したプロジェクトだった。
とは言え、どんな経緯があったにせよ空港が開いたのは事実だ。交通相のショイアーが「ジョークの時間は終わった」と述べたとおり、これからベルリン新空港はドイツの新たな交通の要綱となるべく稼働する事が期待される。敷地面積から言えばドイツではフランクフルト、ミュンヘンに次ぐ3番目であるが、2035年までに増築が予定されており、年間5800万人の利用客を目標としているとの事だ。(現在フランクフルトが7100万人)
しかし、このベルリン新空港の先行きが明るいかと言えば、全くそうではないのは、皆の知るところである。よりによって今年は新型コロナの影響で飛行機の利用客は激減しており、8月の時点でベルリンの旧空港の利用客は前年比で75%減少した。準ロックダウン措置となる明日以降は更に絶望的な数字になる事は間違いない。開港早々試練に晒される。
そういう訳で当然ながらベルリン新空港は当面の間国からの支援が必要になり、既に今年は3億ユーロ、来年は5億5千万ユーロの支援が決定している。空港側も取り敢えずは国からの支援に頼って運営を続けていかざるを得ず、2023年までは少なくとも支援が必要になる可能性があると述べている。
更に新型コロナの影響だけでなく、そもそも飛行機の利用は地球温暖化の大きな要因の一つであり、この点において世間の反発も大きい。昨日の開港の際にはペンギンのコスチュームに扮したおよそ250名がターミナル1になだれ込み抗議活動を行った。まあ、これらの人々は過激な環境主義者とは言え、環境保護の観点から言っても今後飛行機の利用は高額になり、以前より間違いなく難しくなる。
せっかく開港したものの、航空産業界にこれ以上のない程の逆風が吹く時代に開港になってしまったのは皮肉というほかない。9年の遅延を経てようやく開港に漕ぎ着けた事に安堵している関係者も多いだろうが、こんな事になるのがわかっていたのなら、誰も新しく空港を作ろうなどとは思わなかっただろう。