ハードブレグジットで考えられる、ドイツにとって厄介すぎる事態

来週は世界がイギリスに注目する。イギリス首相メイがEUと合意したイギリスのEU離脱協定を英議会が承認するかどうか、1月15日に明らかになるからだ。

まずこれまでのおさらいをしておけば、今年の3月29日にイギリスは2016年の国民投票で決定した通り、EUを離脱することになっている。そして、その離脱の条件をめぐってイギリスとEUは交渉を続け、昨年の11月に離脱条件が合意された。

しかし、この合意を実施するためにはイギリス議会の承認が必要となる。もしもこれが承認されず、最終的に制御無しのイギリスのEU強硬離脱、いわゆるハードブレグジットという顛末になった場合、イギリス、EU双方に甚大な経済的損失が出ると見られている。

ドイツ単体にとってもイギリスは国別で言えば5番目に大きな取引相手であり、およそ75万の職がイギリスへの輸出関連であると言われている。是が非でもハードブレグジットは避けて欲しいところだが、現状メイとEUとの合意案は承認されない可能性が高いと言われている。メルケルも既にドイツも新たな協定は得られない事を想定していると発言し、恐れているハードブレグジットが現実味を帯びて来ていることを窺わせた。

そこで、このハードブレグジットが現実に起こった場合、どのような混乱が発生しうるのかドイツのTagesschau.deが挙げていたので、これを紹介したい。Tagesschauはドイツで最も視聴されているニュースであり、私の中では日本で言うNHKニュースにあたる。

まずは、イギリスポンドの価値の大幅な下落である。イギリス中央銀行の予想によるとその価値はおよそ25%下落する。また、不動産の価格は30%下落すると予想されている。

大手信用保険会社ユーラーヘルメスによると、イギリスの輸出は最初の一年で最大300憶ポンド損失するとされている。ドイツのイギリスへの輸出も最大80憶ユーロの損失の可能性がある。

イギリスの企業は既に生産に必要な輸入物資を買いだめしているが、ハードブレグジットに備えて輸入物資の備蓄行為がさらに加速する。スーパーマーケットや薬品会社も既に食料や薬品といった生活必需品を大量に輸入しており、イギリス国内では既に一般的に物資を貯蔵する場所を得る事が難しくなっている。

全ての品物や人は国境を超えるのに再び検査されなければならない。この為にドイツの税関だけで900人もの新たな役人を雇う必要がある。最悪の事態を避けるためにEUはイギリス人に90日間有効の旅行用ビザを与えるとしているが、これはイギリスが同じことをEU域民に許可することが前提である。

物品の配送の際、税関手続きのため港でトラックが大渋滞する。現在ドーバー海峡での通関は2分間で済ませられるが、これが更に2分間長くなるだけで27Kmの渋滞が発生する。

ハードブレグジットで多くの航空会社はイギリス発着の飛行機のライセンスを失効する。イギリス政府はこの為にヨーロッパの航空会社に取り合えず特別許可を与えるとしている。これもEUが同じことをイギリスの航空会社に許可することが前提であるが、EUにとってもこれは緊急事態における優先事項として扱われている。

車の生産が滞る。最近の車業界は何れもいわゆるジャスト・イン・タイム方式、つまり在庫を最小限にして生産している。しかし、税関手続きの待ち時間が長くなるため、部品の調達が滞り、このシステムでの生産は不可能になる。

これらの事態はあくまで予想の一部であるのだが、実際には何が起こるか本当に不透明だ。そして、この不透明さや不安感が最も厄介なのかもしれない。大量の人々がパニックに陥るからだ。しかし、このような事態を逆に望んでいる人間が世の中には多いと言う事がここ数年ではっきりしてきた事だ。どんな顛末を迎えるのか、ひとまず来週が非常に注目される。