今シーズンのブンデスリーガもいよいよ佳境に入り、昨日はFCバイエルンとボルシア・ドルトムントの優勝を占う首位決戦がミュンヘンで行われた。今年はドイツ勢がチャンピオンズリーグで既に姿を消しており、ブンデスリーガのタイトルもやや色あせて見えるが、それでもドイツ版の「クラシコ」として注目に値する。前半戦が終わった時点では、ドルトムントがバイエルンに勝ち点6差をつけて首位で折り返していた。
しかし、そのドルトムントは2月にロイスが怪我で離脱すると失速し、一時はバイエルンに首位の座を明け渡した。一方のバイエルンも後半戦にやや調子を上げてきたが、前節で格下フライブルクにまさかの引き分けを喫し、再びドルトムントに勝ち点1の差で首位の座を明け渡している。まさに緊迫の展開になってきた。
そしてバイエルンのホームで行われるこの首位決戦、バイエルンは優勝の為には是が非でも勝利する必要がある。当然ながら現時点でのベストメンバー、中盤を支配する4-2-3-1の正攻法でドルトムントを押し切りたい。
一方のドルトムントやや奇策に出た。本来トップ下である大黒柱のロイスをワントップに据え、中盤に守備的なダフードを起用した。出場が予想されたゲッツェはひとまずベンチスタートである。FWのアルカセルを負傷で欠いているのもあるだろうが、明らかにリスク回避の意図が見て取れる布陣、メンバーである。確かに最終的に優勝する為には、FCバイエルンの攻勢が予想されるこの試合は引き分けでも御の字だ。
そして試合が始まるとやはり積極的に仕掛けるのはバイエルンだ。試合開始早々にコーナーキックからフンメルスがフリーでヘディングシュートを放つが、これは僅かに外れた。一方のドルトムントは6分にこの試合の趨勢を決定づけるビッグチャンスを得る。
左サイドをワンツーから突破したドルトムントは、ロイスが深い位置から中央へ完璧なグラウンダーのクロスを送り、ゴール正面フリーでダフードが決定的なシュートを放った。これはまさにドルトムントが意図した形の攻めであり、超のつく決定機だったが、ダフードはこれを右ポストに当ててしまう。
そしてこれ以降はバイエルンが一方的に試合を牛耳るワンサイドゲームが展開される事になる。まずは10分、再びコーナーキックからフンメルスがヘディングシュートを放ち、今度はこれが得点になり先制する。更に17分、ドルトムントのCBザガドゥは自陣で横パスをレヴァンドフスキに奪われるという壊滅的なミスを犯し、これはそのままレヴァンドフスキがGKのビュルキをかわして自ら得点した。
これでドルトムントは完全に気落ちしたのか、この後はバイエルンがチャンスを雨あられの如く創出する状態となる。ドルトムントは2点ビハインドながら前線からのプレスもなく、更に後方は易々と中央からフリーのシュートを許すなど、やる気があるのか疑わしい状況に陥った。頼みのロイスは前線で孤立無援の状態となる。
そして41分にはマルティネスが早くもこの試合を決定づける3点目を奪い、更に終了間際にはニャブリが4点目を決め、アリアンツ・アレーナは完全な祭り状態となった。
試合を前半で決定づけたバイエルンは後半は完全な省エネモードにギアチェンジし、ボールを保持しながら試合をコントロールする。意地を見せたいドルトムントであるが、60分にゲッツェを投入するも全く活路を見出せない。それどころか終了間際に更に失点を許し5-0となった。首位決戦というには余りにも一方的なスコア、そして内容でバイエルンはドルトムントを蹂躙し、再び首位に返り咲いた。
この試合、確かにバイエルンは選手、ベンチの様子を見る限りかなり意気込んでいた様子が窺え、事実良い試合を見せた。優勝するために是が非でも勝利が必要なのと同時に、昨年の直接対決で逆転負けを喫しており、ホームのこの試合で同じ姿は見せられないという意地もあっただろう。
しかし、それ以上に昨日のドルトムントの弱さは衝撃的であるとさえ言える。とりわけ、なす術もなくバイエルンに中央から数々の決定的なヘディングシュートを許したザガドゥ、アカンジの両CBの出来はこの首位決戦に値しない絶望的な酷さだったと言える。とりわけ、フンメルスは前半だけで4度もフリーでヘディングシュートを放った。同じパターンで4度も相手センターバックに決定機を許すなど、あり得ないだろう。
更に言及せざるを得ないのはこの日ドルトムントが採用した守備的な戦術だ。もちろん、前半6分の決定機はまさに監督のファブレがイメージした通りの攻めであり、これが決まっていればその後の展開は変わっていただろう。故にこの結果だけで、ファブレを批判する事は出来ないかもしれない。
しかし、そのプレーを見える限り、明らかに選手たちには戸惑いが感じられた。アウェイでバイエルン相手にカウンターを狙うという意図は理解できるが、若い選手たちを心理的に過度に守備的、消極的にさせてしまった面はあるのではないか。19歳ザガドゥの壊滅的なミスと言い、やはりビッグマッチの経験の少なさが出たと言える。
また、リードされて攻撃に転じたい状態でも中盤高い位置でパスを供給できる選手がおらず、ワントップのロイスは完全に死んでしまった。早い時間帯でのゲッツェ投入のプランはあった筈だが、前半で勝負を決められてしまいそのタイミングも逸した感もある。
ファブレはこれまで低迷する中堅クラブを上位に押し上げてきたと言うだけでなく、その素早いコンビネーションを基調とした攻撃的なスタイルでドイツでも非常に評価が高い。しかし、このようなビッグマッチに勝利し、最終的にクロップやヒッツフェルトのようにチームをタイトル獲得にまで持ち込めるかが、今後トップクラスの監督として評価される為に必要になる。
さて、今後のブンデスリーガの展開であるが、両チームとも6試合を残している。まずバイエルンにとって最も難敵となるのは現在3位のライプツィヒだろう。更に続いての最終節で4位のフランクフルトと対戦する。両チームとも好調であり、ゴリアテを倒す術を知った難敵である。
一方のドルトムントはシャルケとのダービー、そして最終節で5位のボルシアMGと対戦するが、両チームともチーム状態は悪く、バイエルンよりはやや対戦相手に恵まれている感がある。数字上はまだ優勝の行方はわからない。
しかし昨日のあまりにも一方的な試合展開は、チームの士気に大きく影響するだろう。昨年見事なサッカーでバイエルンに勝利し、バイエルン1強時代に終止符を打った事を印象づけたドルトムントだったが、昨日の試合を見る限り、やはり最終的にチャンピオンになるのはバイエルンが相応しいという印象を誰もが持った筈だ。そして私もそれを望んでいる。