一昨日に車を運転していたら急に2つ黄色い警告灯が灯った。クルーズコントロールが使用できなくなり、更に加速も異常に悪くなった。比較的新しい車だったので変だなと思ったのだが、昨日すぐにディーラーで見てもらった所、エンジンルーム内のケーブルが切られていたのが発覚した。
これはドイツでは通称”Marderbiss”と呼ばれる被害である。”Marder”とはイタチ科の動物であり、正確に言えばムナジロテンである。”Biss”とは噛む事なので、文字通りエンジンルームに侵入したムジナロテンがケーブルを噛み切る事で車が故障する被害である。
ムナジロテンは一見可愛いらしく見えるが、イタチ科という事で非常にどう猛であり、有名な害獣である。夜行性であり、特に繁殖期とされる3月から7月にかけては特に攻撃的になるとされる。エンジンルームはムナジロテンにとって非常に好まれる場所らしく、ここで自らの臭い付けをして縄張りを確保する。
更に、同じ車が毎日別々の場所に停まる場合、エンジンルームに入った個体は既にマーキングされた他の個体臭に触発されて凶暴さを増す。ケーブルを噛み切るのはこの臭いを駆逐するための行為だそうだ。ムナジロテンは日本では生息していないようだが、ドイツでは非常によく起こる車の故障原因として有名である。特にミュンヘン、シュトゥットガルトは被害が多いとされる。
それ故、この”Marderbiss”は基本的に保険でカバーされている。ドイツの車の保険には基本的に大まかに分けて、交通事故などの際の損害を補償する強制の自賠責保険(Haftpflichtversicherung)とその他の自然災害や盗難などを補償する任意の車両保険(Kaskoversicherung)の二種類がある。このうちの車両保険でこの”Marderbiss”「自体」は補償されている。
因みに車両保険は更に部分車両保険(Teilkaskoversicherung)と全面車両保険(Vollkaskoversicherung)に分けられる。場合にもよるので一概には言えないが、簡単に言うと、前者の場合は損害が部分的に補償され、後者の場合は損害が完全に補償される。
車両保険は任意とは言え、ほとんどのドライバーは自賠責保険とセットで加入しており、”Marderbiss”「自体」の損害を修理する場合はそれ程大きな損害にはならない。せいぜい2、300ユーロ程度と言われている。
しかし、問題はこれは気付かずに放置しておいた場合である。重要なケーブルを噛み切られる事で、例えばエンジンルームなどに冷却水が行かなくなりモーターが損傷する、或いはステアリングなどに影響がでた場合、その修理費用は高くつく上に、これらの二次損害に関しては殆どの場合、通常の車両保険ではカバーされていない。
私の場合は警告灯が灯り、すぐにディーラーへ行ったので酷くはなかったようだが、忙しくてこれを暫く放置する人もいるだろうから、気をつけた方が良いと思われる。”Marderbiss”が厄介なのは、この二次損害に気付かず、かつ甚大な被害に繋がる可能性があるからだ。
この”Marderbiss”を予防する方法だが、調べた限り最も確実なのはケーブルを固くガードするか、或いは動物の嫌う超音波を出す装置を取り付ける事だろう。これらの措置の取り付けがどれ程難しいか知らないが、試す価値はあるかも知れない。モーターについた動物の臭いを除去する為に定期的にモーターを洗浄するのも効果があるそうだ。
それでも、ムナジロテンの侵入から完全に防御することは不可能なので、被害の早期発見が重要なのは言うまでもない。少なくとも、ボンネットに猫の足跡のようなものを見つけたらその可能性が高い。実際に私も言われてみれば何度か見た事がある。その際には今後はエンジンルームをチェックしようと思う。