アルミン・ラシェット、新たなCDUの党首に選出される

本日はドイツ与党、最大政党でもあるCDUの新たな党首を決める党大会がオンラインで実施された。ここで新たに選ばれる党首はすなわち、今年決定されるアンゲラ・メルケルの後を継ぐドイツ首相の有力候補となる。その意味でも国内外から極めて注目される政治イベントだった。

そして、ここで選ばれたのは現ノルトライン・ヴェストファーレン州の首相であるアルミン・ラシェットである。

選挙前の状況をおさらいする。ラシェットの他に立候補していたのは保守派で経済のエキスパートであるフリードリヒ・メルツ、政府の外交監査委員長であるノーベルト・レットゲンである。このうち当初レットゲンはノーチャンスと目されており、事実上メルツvsラシェットの争いになると見られていた。とは言え事前のアンケートでは常にメルツがリードした状態であった。

一方のラシェットは新型コロナ対策で経済重視の緩めの対応を主張、対策がやや後手に回った時期があり評価を落とし、一時は大穴と目されたレットゲンにも追い抜かれるなど極めて厳しい状況に陥ったかに見えた。しかし、選挙直前になって数々の大物政治家、団体がラシェット支持を表明するなど劇的に巻き返すことに成功した。大穴と目されたレットゲンも侮れない支持を集めるようになり、この争いは当日まで全く読めない緊迫したものとなった。

そして、本日の選挙であるが、まずは第1回目の投票でメルツ385票、ラシェット380票、レットゲン224票の結果となった。これでレットゲンが脱落し、勝負はメルツとラシェットの決戦投票に持ち込まれた。しかし、当初完全な大穴だった事を見れば、レットゲンの健闘は特筆に値する。

そして雌雄を決する決戦投票でラシェットが521票、メルツが466票という結果となり、ラシェットが新たなCDUの党首に選出された。1回目のレットゲンへの票が決戦投票でラシェットへ流れる事は予想された事であり、開票前のメルツは既に敗北を受け入れたかのような表情だったのが印象に残っている。

この党大会は本来なら昨年の4月に行われる筈だったのが、新型コロナの影響で一旦は12月の初めまで延期され、これが更に本日に延期されたものだ。ラシェットはこのコロナ対策で評価を落としたが、やはり最後に物を言ったのはドイツで最大の人口であるノルトライン・ヴェストファーレン州の首相として選挙に勝利し、着実に実績を積み上げてきた安定感、安心感だろう。

一方のメルツは一時圧倒的にリードしており、仮に12月に党大会が行われていればメルツが勝つ可能性が高かった事は間違いない。しかし、ここでメルツはこの延期はコロナとは関係なく、自らの党首就任を阻む陰謀である可能性を暗に指摘し、世間の印象を劇的に悪化させた。この陰謀論のお陰でメルツはアメリカで一部「ドイツ版トランプ」などと揶揄されており、致命的なミスだった言える。

また、今回の結果は、当日の演説も影響したと思われる。私はこの3名の演説をライブで聞いたが、この中で最も印象に残る演説を行ったのは間違い無くラシェットだ。はっきり言えば、いずれの候補者もデジタル化、女性の登用、ポピュリズムへの対抗、EUの連帯強化など、政策云々に対してそれ程大きな差はない。テーマはまさに、どの人物を信頼するかと言うことに尽きる。

この点においてラシェットは良いプレゼンテーションを行った。ラシェットは自らの家族のエピソードも交えながら、自らがどんな人物か、何に対して価値を置いているのか明確なメッセージを出した。簡単に言えば、メルケル路線を踏襲し、右にも左にも行き過ぎない断固とした中道政党の位置を守り続ける事。強権的、絶対的なリーダーではなく、あくまで協調を重視したチームキャプテンだと言う事である。

そして、ラシェットは演説の最後、机の上に肘をかけ、リラックスした姿勢をとり「民主主義で最も重要な問い、それは誰を信頼するか、それを決めるのは今日…貴方だ」。との決め台詞でカメラにバッチリ指を差し、オンライン党首選を意識したドラマ仕立ての演出で締めた。これにはかなり意表を付かれたが、元々地味なイメージがあるだけにインパクトはあった。

さて、ドイツ最大の国民政党CDUの新たな党首が決まり、今後もっとも注目されるのは誰がドイツの首相になるかと言う点になる。もちろん、通例ならばラシェットはその最有力候補であり、本人もその意欲は示している。しかし、現時点では姉妹政党であるCSUマルクス・ゼーダーの国民からの人気も高い。最終的に誰がCDU/CSU連合から公式に首相候補として擁立されるかは、予定では4月に決まる事になっている。