CL16強 : FCバイエルン、鉄壁の守備でリバプールと引き分ける

火曜日はCL16強注目の一戦、FCバイエルン対リバプールが行われた。2010年以降、CL上位進出の常連となったFCバイエルンだが、今期はブンデスリーガでもたついており、往年の強さはもはや無い。更にこのところブレイクしつつあるレオン・ゴレツカが負傷でメンバー入りを外れる事が試合前に明らかになった。

一方のリバプールは昨年はCLで決勝進出まで漕ぎ着けており、今期はプレミアリーグでも首位につけている。監督であるユルゲン・クロップが仕込んだ脅威のプレッシングからの高速カウンター、そして今や世界最高レベルのFWモハメド・サラーを擁するその実力は現時点で世界トップである事は間違いない。

リバプール優位は動かないと見られるこの16強戦、バイエルンは何とかアウェイの1stレグを最小失点で切り抜け、ホームの2ndレグに望みを繋ぎたいところだ。しかし、同じような状況でトッテナムに挑んだブンデスリーガ首位ドルトムントは0-3で惨敗している。FCバイエルンにとってもかなり難しい試合になる事が予想された。

因みにこの試合、私は帰宅後に10ユーロするペイTV(オンライン)の1日券を購入して観戦しようと試みたが、余りのアクセスにサーバーはパンクしており、なんと前半40分からの観戦となった。

そして、やっと観戦に漕ぎ着けた私の目に飛び込んできたのは予想通り、モハメド・サラーを中心に猛攻を仕掛けるリバプールをバイエルンが必死の守備で凌ぐと言う展開だった。この時すでにバイエルンの守備ラインはかなり後ろまで下がっており、かなり危うい状況に見えたが、単発ながら逆襲に転じる場面もあり決して怯んではいない。

遡ってみたハイライトでもリバプールがサラー、マネがフィニッシュするチャンスがあった一方で、バイエルンも13分にニャブリのクロスからあわやオウンゴールかと思わせる決定的チャンスを得ており、ほぼ互角の展開である事を窺わせる。

後半が始まると、やはり高い位置のプレッシングからの速攻でリバプールが攻勢をかける。しかし、統制のとれたバイエルンの守備は全くと言って良いほど綻びを見せない。攻撃面ではさすがに単発の感は否めないが、キッチリとシュートまで持っていき、リバプール得意のカウンターを許さない。

極めて速いスピードかつ、局面で激しい競り合いが繰り広げられる世界最高峰のレベルの戦いが繰り広げられる。両チームのチャンスこそ少ないが、一瞬たりとも目が離せない。こんな試合が見られると知っているのなら、それはペイTVの1日券チケットのブッキングが殺到するのも当然だ。

バイエルンは79分にハメスがフリーで好位置からミドルシュートを放った一方で、リバプールは85分にマネが左サイドのクロスからのヘディングでノイアーを脅かした。しかし、後半を通じて言えばこれが両チーム唯一の決定機だったと言える。試合は両チーム無得点で終了し、バイエルンはホームの2ndレグに向けて望みをつなぐ事に成功した。

この試合についてまず言及したいのはバイエルンの戦術だ。バイエルンはこれまで過去数年間、鮮やかなコンビネーションを駆使した攻撃サッカーがそのトレードマークあり、これはあのレアル・マドリードが相手でも変わる事はなかった。

しかし今回、相手が格上である事を自覚したバイエルンは自らのスタイルを捨て、徹底的に相手の良さを消す戦術戦を遂行した。強敵相手のアウェイ1stレグであり、まず無失点で切り抜ける事が重要なのはもちろんだが、ここまで守備に重点を置いたバイエルンはここ数年は見る事のなかった姿だ。前半の殆どを見ていないので恐縮だが、ハイライトや試合後のコメントを聞く限り、バイエルンはこの戦術戦を完璧に遂行したと言えるだろう。

そして、この試合こそ低迷するフランクフルトをブンデスリーガ上位に押し上げたニコ・コバチの面目躍如といったところだ。バイエルンというビッグクラブを指揮する上でその手腕に疑問の声も多く聞かれたが、コバチにはこれまでの大物監督とは異なる部分で強みがある事が確認できた。

そしてこの戦術でバイエルンにとって極めて需要なパーツになったのが、この日中盤の底で先発したハビ・マルティネスだ。30歳となり衰えの見えるマルティネスは既にチームで定位置を失っており、多くの人はこの試合を怪我で欠場したゴレツカの代役としか見ていなかった。

しかし、このマルティネスこそがこの試合のMOMだったと言えるだろう。マルティネスはその的確なポジショニングで「危ないところには常に存在する」と言えるほど、そのスペースを巧みに消し、更にその屈強な体格を活かしてリバプールの猛攻を身体を張って防いだ。

更にこのマルティネスに続きこの試合でその存在価値を再び知らしめたのがマッツ・フンメルスだろう。フンメルスも衰えが指摘されており、昨年最もその価値を落とした選手の1人と認識されていた。

しかし、この左CBで先発したフンメルスもこの日はフィールドプレーヤー最後の砦としてリバプールに立ちはだかった。とりわけ、左サイドでモハメド・サラーを見張っていたアラバをフンメルスは完璧なポジショニングでサポートした。DFながら元々そのパスセンスには定評があるが、攻撃に色気を出さず守備に専念させればまだ十分に最高峰のレベルでも通用する事が明らかになった。

チーム全体で言っても、とにかく屈強なプレミアリーグのフィジカルにバイエルンが屈しなかったのが大きい。同じブンデスリーガ勢でもドルトムントはここで完全にトッテナムに凌駕され将棋倒しで崩れたが、やはりバイエルンは同じような状況で何が必要なのか十分に把握した上で試合に臨み、そして実行した。これこそ経験の差だといえるだろう。

更に指摘しておきたいのは、バイエルンの選手はリバプールのゲーゲンプレッシングを巧みに切り抜ける足元の技術に長けていた事だ。この点でやはりGKにノイアーが復帰してきたことは極めて大きい。ノイアーはこの試合、明らかに手よりも足を使う場面が多かったが、そのパスの大半は長いボールでもしっかりと見方を目掛けてキックされており、全く不安を感じさせなかった。

そして、2週間後に行われるホームでの2ndレグであるが、バイエルンはキミッヒが累積警告で出場停止となる。一方でミュラー、ゴレツカが復帰する見込みだ。(※訂正 : ミュラーは2ndレグも出場停止)。この試合はもちろんバイエルンは守備だけでなく得点を奪う事を求められる。この日出色の出来だったマルティネスを再び先発させるのか、まずはニコ・コバチがどのようなメンバー、戦術で臨んでくるのか、極めて注目される。

期待薄と思っていたバイエルンだったが、腐ってもバイエルン、その力は決して侮れない事をまずは1stレグで証明したと言って良いだろう。