パリSGを破ったFCバイエルン、CLを制覇し今季3冠を達成する

日曜日にコロナモードCL決勝戦、FCバイエルンvsパリSGの試合を観戦したので、感想を記しておきたい。CLは数年前から既にペイTVでしか見られないようになっていたが、この決勝戦は急遽一般放送のZDFでの中継が決まった。ドイツには「社会的に極めて大きい意味のある」イベントはフリーTVで中継するというルールがあり、放送局はこれに則った訳である。コロナ禍で庶民の娯楽も制限される中、多くの国民がこの試合に釘付けとなった。

早速試合を振り返りたい。4強のリヨン戦で守備の不安を指摘されたバイエルンだったが、この日は非常に集中して試合に入った。高い守備ラインを維持しながらもPSGのカウンターを封じる事に成功し、前半10分までは完全にペースを握る。しかし、PSGも徐々に前線へボールを運ぶようになって来る。

18分、PSGはピッチ中央でボールを奪うと素早く前方のネイマールへボールを繋ぎGKと1対1の決定的チャンスを得る。このシュートはノイアーが防ぎ、更にネイマールはこぼれ球をフリーのディマリアが待つ中央に折り返したが、これもノイアーが左足で防ぐスーパープレーを見せる。一方バイエルンは直後に左サイドデービスのクロスからレヴァンドフスキが振り向きざまにシュートを放ち、これは惜しくもポストに当たる。

23分、PSGは見事なダイレクトパスでバイエルンのプレスをかいくぐり、最後はディマリアがゴール正面やや右からシュートを放つ。しかし、利き足とは逆の右足なのが幸いしたのかゴール上に外れた。バイエルンは30分、右サイドのクロスからレヴァンドフスキがゴール至近距離から頭で合わせるが、これはGK正面で惜しくも得点ならず。

前半終了間際の45分、バイエルンはアラバが自陣ペナルティエリア内で絶望的なパスミスを犯し、最後はPSGムバッペがゴール正面からフリーでシュートを放つがこれは幸いにも力なくノイアーの腕の中へ収まった。直後にバイエルンは左サイドを突破したコマンがペナルティエリア内でケーラーに後ろから倒されるが、笛は吹かず。これはかなり微妙な判定で、PKが与えられてもおかしくない。

前半は両チーム無得点ながら世界最高峰のチーム同士、非常にレベルの高い白熱した展開となった。高い位置のプレスから多彩な攻撃を見せるバイエルンに対し、PSGはやや引き気味の守備からネイマール、ムバッペの個人技で活路を見出そうとする。バイエルンはこの両者への決定的なパスを概ね寸断しているが、逆にやや守備力が劣る左サイドでディマリアに翻弄される場面が散見される。

後半も前半同様バイエルンがボールを支配し守るPSGがカウンターを狙う展開となるが、両チームともペースを落として試合は膠着状態となった。試合はミスをした方が負ける神経戦の様相を呈してくる。しかし、FCバイエルンは見事なコンビでこの均衡を破った。

中央やや右バイタルエリアでチアゴからの高速ミドルパスを受けたキミッヒはすかさず右サイドのニャブリにボールを送る。ニャブリはこれをダイレクトで中央に走り込んだミュラーに速いグラウンダーのクロスを送った。ミュラーは2人がかりの激しいチェックを受けながらもこれを再びダイレクトでキミッヒに折り返した。

この折り返しを受けてワンクッション置いたキミッヒは決定的スペースで待ち構えるレヴァンドフスキにクロスを送る…と見せかけてキミッヒが狙ったのはレヴァンドフスキに釣られたケーラーの背後に走り込んだコマンだった。このロビングパスをコマンは頭で決めてバイエルンが先制する。見事だ。高い技術と組織が融合した、まさに世界最高峰の攻撃である。

そして、あくまでも追加点を狙うべくギアを上げたバイエルンに対し、先制されたPSGには明らかに焦りが見えバランスを崩しつつある。バイエルンは左サイドのコマンから立て続けにチャンスを得るが追加点ならず。68分にコマンに代えてペリジッチ、ニャブリに代えてコウチーニョを投入し、ややボールキープを意識し始める。

一方のPSGは70分にディマリアの個人技からマルキーニョスがゴール至近距離からシュートを放つが、これもノイアーが阻んだ。PSGは同点に追い付くべく攻撃の選手を投入し攻勢にでるが、FCバイエルンは高い位置からプレッシャーをかけ続けPSGに主導権を渡さない。結局試合はそのまま1-0でバイエルンが逃げ切り、悲願のチャンピオンズリーグを制覇した。

これでバイエルンは国内リーグ、カップ戦の優勝を含めた、いわゆる3冠を達成した。これは2013年に続く2度目となり、クラブの歴史上でも最大の成功となる。

試合を振り返れば、力の拮抗した世界最高峰のチーム同士、非常にレベルの高い、見応えのある決勝戦だった。前半はほぼ互角の展開ながら、後半見事なコンビネーションで膠着状態を破り、より多くの時間帯で安定したパフォーマンスを見せたバイエルンの実力が僅かに勝っていたと言える。

また、チームの強さが一部のスーパースターに依存気味のPSGに対し、バイエルンは個と組織が攻守に非常に高いレベルで融合しているチームだった。とりわけ、試合を通じて高い位置でボールを広く、素早く動かし続けたのがバイエルンであり、90分を通してのこれが体力的なアドバンテージ、特に後半のパフォーマンスの差に繋がったのではないか。詰まるところ、バイエルンの方がより質の高いサッカーを実践した。

一発勝負ではしばしばカウンターサッカーが中盤を支配する王道のサッカーを打ち破る事があるが、結果が内容を正しく反映したという意味でも、非常に良い試合だったと思っている。

そう言う意味では、何よりも監督であるハンジ・フリックが素晴らしい仕事をした。私はこの試合、リヨン戦で不安を見せた守備を安定させるため、スタメンの変更を含めた戦術の調整が行われると踏んでいた。つまり、ネイマール、ムバッペを警戒し、これまでよりも守備ラインを下げる方が賢明ではないかと思っていた。

しかし蓋を開けてみれば、左ウィングのペリジッチに代えて、更に攻撃的なコマンを起用し、高い守備ラインも下げるどころか、よりアグレッシブに前方からプレスをかける事で試合の主導権を握った。あくまでも自分たちのスタイルを貫き通し成功した事を大いに称賛したい。

選手に個々に目を向ければ、この試合は全ての選手が良い仕事をしたと思うが、際立っていたのはやはりGKのノイアーであろう。PSGの決定的チャンスを全てストップしただけでなく、高い足下の技術、安定した両足のキックで攻撃の起点にもなった。フリックが強気に高い守備ラインを維持できるのは、このノイアーが最後の砦として控えているのも大きいだろう。常に世界トップのGKを輩出し続けてきたドイツでも、ノイアーの実力はおそらくずば抜けている。

しかし、ここ数年寧ろ下り坂にあったチームから誰がこれ程までに強く、完成度の高いバイエルンを想像しただろうか。ハンジ・フリックが就任して以降のバイエルンは、メンバー自体はそれ程変わっていないにも関わらず、36試合中33勝という驚異的な強さである。マネジメントが変わるだけで、これほどチームは変貌するのだ。

さすがに来期はこれ以上を望む事は出来ないだろうが、願わくば来季もチャンピオンズリーグの舞台で引き続き世界最高峰の組織サッカーを見せて頂きたい。しかし、今季早期敗退したイングランド勢、レアル・マドリード、ユヴェントスといった強豪は必ずや巻き返してくるだろう。一方国内リーグでドルトムント、ライプツィヒといった2番手がFCバイエルンを追随出来るほどの力をつけてくれる事が望まれる。