全く鎮静化する気配のない新型コロナ情勢であるが、昨日は例によってドイツも国内全体で32552人というこれまでに最悪の新規感染者数、更に964人の死者数が確認された。10万人あたりの感染者数は7日間平均で140人に達しており、目標とする50人にはほど遠い。ワクチン接種が始まったのは明るい話題だが、早速配送に問題が発生した模様で、本当に先が思いやられる。1月10日までだったシャットダウン措置も延長は確実な状況だ。
さて、そんな絶望的な状況であるが、このウィルスの蔓延とともに極めてドイツで問題視されているのが、それに纏わり、はびこっている陰謀論である。
勿論、人間である以上思うのも言うのも自由であり、そんな話も単なるフィクションだと思えば大した害ではないのかもしれない。しかし、この陰謀論を真しやかに信じ、それに基づいて行動する人々が存在する。そしてそのような人びとが増えれば増えるほど、コロナの終息は難しくなる。
最も顕著な例は夏以降ドイツ各地で頻発している”Querdenken-Demo”と呼ばれるデモンストレーションだろう。ドイツ語で”Querdenker”とは一般とは異なった考え方をする人の事だが、ここで具体的に新型コロナ規制に反対する人々の事を指す。そして、このデモに参加する人に言わせれば新型コロナは「ウソ」であり、或いは国が秘密組織に操られて、コロナパンデミックを捏造し何らかの怪しげな計画を実行しているという世界観に基づいて行動している。
とりわけ、この手のデモの参加者が頑なに否定している事がマスクを装着する事である。彼らに言わせれば、マスクは国がコロナパンデミックを大袈裟に見せかける為の道具、或いは国民を抑圧するシンボルである。ウィルスはマスクを通過するから意味が無いと言う一方で、窒息死の原因になるとも主張している。
旧東ドイツのザクセン州は特にこのような陰謀論が蔓延しているとされ、ロックダウンやシャットダウンもどこ吹く風の陰謀論信者がデモを繰り返している。現にザクセンはドイツで最悪のコロナ蔓延地域と化した。
尚、日本では今でもBCGがコロナに効き目がある可能性が言及され、事実ドイツでもBCGを義務化していた旧東ドイツの人口あたりに感染者数が当初少なかったことで一時話題になった。しかし知ってのとおりこれは現在でも証明されていない。それどころか、今となっては旧東のザクセン州で感染が逆に爆発している。次に状況が酷いのはこれも旧東のテューリンゲン州だ。
はっきり言えばこのBCG説も陰謀論とまではいかないが、少なくとも現時点では人々に間違った動機を与えかねない曰く付きの情報だろう。ドイツの状況を見れば、自分がBCGで守られているとは露ほども考えられない。日本でこのBCG説を当てにして外出する人がいない事を願っている。
更に我々アジア人に甚大な実害をもたらしている陰謀論の一つが「ウィルスは武漢の研究所から漏れた生物兵器」といった類の話だろう。その所為かドイツでのアジア人への差別は激増したとい言われ、事実私も不快な経験をした。所詮このような話を真しやかに信棒する人はこれが中国人だろうが、日本人だろうが関係ない。見かけが中国人に似ていれば、誰でも同胞になる。
しかし、当たり前だが、これが中国人だろうが何人だろうが関係ない。このような陰謀論が幅を利かせ、差別が蔓延するなどあってはならない。ナチスによるホロコーストも、元はといえばユダヤ人による世界征服を宣った陰謀論だ。それを多くの人が信じた結果何が起こったか、今更説明する間でもない。
更に、あまりにも馬鹿げていて気の毒だと思うのが、ビル・ゲイツがワクチンを通じて人間の身体にチップを埋め込み、世界をコントロールするという話である。全くもって、このような話を真に受ける人が存在する事に驚かされる。
しかし、ドイツのとある医師が、ワクチンに関する質問攻めにウンザリした結果、SNSにそのQ&Aを公開したが、その中にこのビルゲイツの話が含まれていた。話半分かもしれないが、この陰謀論を信じる人が多く存在する事を示唆している。
尚このバイオンテックとファイザーのワクチンについては、とあるAfDの議員も不正に遺伝子操作をした代物だと国会で主張し周囲を呆れさせた。疑問や質問があるのは結構な事だが、このワクチンは既にEUから承認されており、このような主張自体がもはや陰謀を前提にしている。このmRNAワクチンについては既に多くの説明が為されており、不正な遺伝子操作などとは全く関係ない。メルケルもこの質問にはため息をついて返答した。
このような陰謀論を権力のある人間が真しやかに主張する事により、多くの人々が信じ込み、拡散していく。これまで経験をした事がない程世の中が混乱し、人々が不安になっている証でもあるが、このような主張は何の歴とした根拠があるわけでなく、単一の事象を繋ぎ合わせて如何にもありそうな話を演出しているに過ぎない。現在世界各地でどれほど馬鹿げた陰謀論が幅を利かせているか、問題視されて然るべきだろう。