なぜ旧西に比べて、旧東ドイツのコロナ感染者数は少ないのか

ドイツではこれまで全体でおよそ16万7千人の新型コロナ感染者が確認されているが、これは当然地域によって大きな隔たりがある。既にさまざまなメディアに州ごとの感染者数、死亡者数、また人口10万人あたりの感染者数が紹介されており、旧東ドイツの感染者数は旧西のそれよりも少ない事が指摘されている。

確かにざっと見る限り、感染者数、死亡者数の絶対数は南のバイエルン州やバーデン・ヴュルテンベルク州を筆頭に旧西の地域の方が圧倒的に多い。人口10万人あたりの感染者数で比較しても圧倒的な差があると言う程ではないが、やはり全体的には同様の傾向が見られる。

そしてこれが、ドイツでもBCG接種が新型コロナにも効果があるという俗説が実しやかに囁かれている理由でもあろう。BCGは1998年以降ドイツでは推奨されていないが、旧東ドイツで義務化されていた。

もっとも死亡率に関しては旧西と旧東に目立った差異はない。また、旧西と旧東ではBCG以外にも人口密度や構成、経済力などの差など、ウィルスの広まりに影響があると考えられる要因がある。

まず、ドイツで広まっている新型コロナの発生地はオーストリアのスキーリゾート地であるイシュグルである事が確実視されている。イシュグルは丁度ドイツの真南にあたるので、当然の事ながらドイツの南であるバイエルン州とバーデン・ヴュルテンベルク州はドイツの他州より新型コロナの影響が大きい。

ましてや冬場にオーストリアにスキーリゾート地でバカンスを過ごすのは、かなりの金持ちでない限り不可能である。一人頭の経済力の高い旧西の州民が南方へスキーに行き、ウィルスを持ち帰ってきたと推測される。また、被害の大きいフランスと国境を接する西部の州も感染者数が多い。

また、旧西ドイツの州は一般的に旧東よりも都市化が進んでおり、人口が密集している地域が多い。人口構成的にも旧東には高齢者が多く、移動能力も高くない。

更に新型コロナは今年のカーニバルの時期とも重なった。その中でも旧西のザールランドやノルトライン・ヴェストファーレン州は大勢が集まり仮装行列をおこな大イベントとなるため、巨大なクラスターとなった事が確実視されている。カーニバルへの熱の入れ方はかなり地域差があり、北部や東部の州はこのような大イベントまでにはならない。

以上のような東西の社会経済、文化、地理的な条件の違いなど、新型コロナの感染状況を左右し得る要因は多く存在し、旧西の方がウィルスが広まり易い条件である指摘されている。BCGの効果もさまざまな所で検証中のようだが、あくまでドイツの状況を見る限り絶大な効果があると言うのは私的には眉唾である。

因みに、どこかの旧東ドイツの州の政治家は、旧東の州民は独裁政治の経験があるからコロナの規制に対応できる旨の発言して物議を醸した。また、自由で発達した旧西に比べ、共産圏だった旧東は田舎で生活水準も低いという先入観が刷り込まれている。ドイツ分断の過去はドイツで非常に繊細なテーマであり、安易な比較は好まれない。

もっとも、旧東は旧西に比べ明らかに新型コロナの影響が少ないのは事実である。今後規制緩和は旧西の州に先駆けて進めていくであろうし、言ってみればチャンスでもある。この状況を肯定的に捉え利用した方が、ドイツにとっても先行きは明るいのではないか。