ドイツ政府、総額1300億ユーロの景気対策の実施を発表する

3月末のロックダウンも徐々に過去の話になりつつあり、学校や保育園も徐々に再開、6月15日からはこれまで発令されていた渡航自粛勧告が緩和される。しかし、地域によっては未だクラスターが発生しており、依然として多くの人々は注意深くある事を強いられている。ただでさえ庶民の懐に打撃があった上に、夏が来るのに慣れないマスクやら、ソーシャル・ディスタンスなど誰もいちいち外に出て考えたくない。

要するにロックダウンも終わり国境が解放されてきたからと言って、直ぐに以前のような状況に戻る訳ではないと言う事である。当然ながら経済は壊滅的な打撃を受けており、ドイツ政府が4月の時点で予想した今年の経済成長率は−6,3%だそうだ。

そういう訳で当然ながら景気対策が必要なには明らかだったので、今週それが発表された。ドイツ政府は既に休業補償や企業の支援などに過去最大規模の対策を行なっているが、これは平たく言えば国民がコロナ禍を生き延びるための対策であり、今回の対策は文字通り消費を増やして景気を再び高揚させるための政策である。

ここで最も世間を驚かせたのは、7月から付加価値税19%を一時的に16%に下げる事を決定した事だろう。食料品に対する軽減税率7%も5%になる。しかし、これが我々庶民にとって喜ぶべき事かどうかはわからない。何故なら、余程景気の悪い業種は別にして、おそらく多くの小売店は利益を増やすべくその分税抜き価格を上げるので、結局価格はそんなに変わらない。税抜き価格を変えずいても、どっちみち3%の違いである。

それどころか逆にこの景気対策が終了したら「税率が元に戻ったから」と理由を付けて今度はガバッと値上がりするのは目に見えている。個人的にもそんなに高額な買い物をする予定はないので、減税だからといって特に喜ばしいとは思っていない。

寧ろ私が驚いたのは子供一人当たり300ユーロのボーナスが国民に支払われる事だ。これは子供手当を増額する事で支払われるので、別に面倒な申請をする必要はない。これは確定申告において高額所得者は得にならないように調整されるが、大半の庶民はこの恩恵を被る事ができるだろう。

更に電気代の上昇を抑えるため、再生可能エネルギー負担金の一部を来年から国が負担するようになる。コロナ禍の影響での需要減少と好天候でエネルギー価格が下降したため、我々の払う電気代も下がると思いきや、そうは問屋が卸さない。現状のシステムでは逆にこの再生可能エネルギー負担金が爆上がりするらしく、国政が介入しなければ来年のかなりの電気代上昇が懸念されていた。

もう一つ注目されていたのが、ドイツの基幹産業でもある自動車業界をどうするかという点である。2009年の不景気事にドイツ政府は9年以上の中古車を手放し、新車を買った場合に2500ユーロのボーナスを与える助成策を採って自動車業界を救おうとした。しかし、今回はディーゼル車とガソリン車の買い替えに関しては何のボーナスも無い。

一方40000ユーロ以内の電気自動車の購入に関しては、国からのボーナスが3000ユーロから6000ユーロに引き上げられる。これにメーカーのボーナスが加われば最大9000ユーロの割引になる。更に補給所の増設とバッテリーの研究開発に25億ユーロを投資し、電気自動車の普及を促進させる。同時に公共交通機関の拡充も図る。

今回の景気対策はとりあえず目先の需要を回復させる新たなスタートの意味合いもあるが、同時に今後長期間にわたる社会経済の構造改革を意識したものになった。まあ、こんな機会でもなければこれまで滞っていた改革に踏み切る事は不可能だろう。

しかし、これまでは本当にドけちだと思うほど頑なに黒字財政に拘り、減税も「するする」と言いながらしなかった。それが、今回のコロナ禍で堰を切ったようにドバドバと支出を始めた事には正直驚いている。そのせいか、不謹慎かもしれないが、ここまではコロナ禍は庶民にとってはそれ程悪い状況にはなっていない。寧ろトータルでみれば以前の狂った好景気時より幾分マシになったとさえ思える。経済が成長する事は不可欠だが、好景気は以前とは違う形で来る事を期待している。