コロナ禍で再考される、バカンスの過ごし方

私は日本で教育されて育った日本人であるので、長くドイツに住んでもどうしても馴染めないものもある。はっきり言えば、母国と教育、文化圏が全く異なる外国に在住するなど圧倒的にデメリットの方が多い。まあ、それは一概に言える事ではないだろうが、平和な母国でごく普通の生活を送ることが本来最も幸せな事ではないかと思っている。

にも関わらず、私が色々と難癖つけながらも何故かドイツに在住しているのは、ひとえにバカンス(長期休暇)の存在が大きいだろう。バカンスといっても金持ちではないので贅沢はできないが、これがあるかないかで人生の充実度は相当違う。因みにバカンスはドイツ語では”Urlaub”であり、ドイツにおいても絶対的かつ神聖な存在である事は言うまでもない。

しかし、今年はコロナ禍の所為でそのバカンスの過ごし方が例年とは全く異なるものになる可能性が高い。世界でも最も旅行好きの民族と言われるドイツ人は、基本的にバカンスの時期にはどこかへ旅行へ行くのが通例である。個人的にもバカンスの時期はリフレッシュの為にはどこか遠くへ行き、非日常的な事を体験した方が好ましいと思っているが、今年はそう言う訳には行きそうもない。

現在ドイツには世界的に”Reisewarnung”、いわゆる外国への渡航中止を勧告している状況であり、この状態は少なくとも6月14日まで続く。これは渡航禁止ではないが、もしもこれを無視して渡航したならば、かなり高い可能性で帰国時に”Quarantäne”と呼ばれる隔離施設に14日間放り込まれる。普通誰もそんなリスクを負ってまで、旅行などはしない。

そのような我々庶民が被る実害だけでなく、この渡航中止勧告は当然ヨーロッパの経済に甚大な影響がある。観光業がヨーロッパ経済に占める割合は10%程度と言われており、特に南欧諸国は観光業がその割合が高い。スペイン、イタリアなどはドイツ人に定番の旅行先の国だが、今年は知っての通り新型コロナで壊滅的な状況に陥った。多くの南欧諸国は毎年ドイツからの観光客を計算に入れている。

そう言うわけで、ドイツの外務相であるハイコ・マースは最近、このドイツ人のバカンスを救うべくヨーロッパ10ヶ国と会合を開いた。10ヶ国とはドイツ人が最も好む旅行先である、スペイン、イタリア、ギリシャ、オーストリア、クロアチア、マルタ、ポルトガル、スロヴェニア、キプロス、ブルガリアである。

そのマースの話によると、ドイツは現在有効になっている”Reisewarnung”「渡航中止勧告」を何とか6月中に解除する事を目標にしているとの事で、それは可能だと希望を持たせる発言をしている。もちろん、その場合でも現地で導入されている新型コロナ対策のルールに従う事が前提になるので、各国ごとに”Reisehinweise”、つまり渡航に関する注意事項などが外務省から告知されることになる。まあ、希望が完全に断たれているわけではない。

もっとも、バイエルン首相であるマルクス・ゼーダーは、現在の状況で「一か月内にイタリアやフランスへ行ける状況へなるとは思えない」とマースの楽観的な見通しはっきりとクギを刺した。そして、今年のバカンスはドイツ国内で過ごすべきだと主張している。

確かに、今年は仮にバカンスシーズンを前に国境が開いたとしても、外国へ行くのは現実的ではない。現地のコロナルールを気にしながら過ごしても逆にストレスになる可能性が高く、リフレッシュどころではなくなる。多分ゼーダーの言うように、今年はドイツ国内の可能な範囲で旅行へ行くのが現実的な選択肢で、この機会に自国の良いところを再確認できるかもしれない。

それどころか、これまでのように飛行機で二酸化炭素を撒き散らし、地元の住居を違法に格安ホテル替わりにしたり、観光客の爆買いを期待するようなバカンスのスタイルが再考されることが望ましいだろう。

因みに、私は今年は既に二週間休暇を消化したが、ロックダウンの時期とまんまと重なって余計にストレスが溜まったので、夏の休暇は可能であれば何とか旅行はしたい。もし仮に行くのであれば、やはりコロナ被害の少なかった旧東ドイツ地域が候補になってくる。まあ物価も安いし、北に行けばバルト海もある。今後の事態の推移を見守る必要があるが、この機会に行ってみるのも悪くはないと思っている。