2019年は、かつてないほど旧東ドイツが注目される一年になる

2018年はドイツの政界にとって波乱含みの年だった。連邦議会選挙から実に6ヶ月経った3月にようやく大連立政権が発足したが、この政権は仲間割れや内輪の議論ばかりで、与党CDU/CSU、SPDは著しく国民の支持を失った。首相のメルケルも大晦日の国民向けのスピーチで珍しく自己批判的にこのテーマを語るほど、国民の不満は頂点に達している。

そのメルケルも18年間に渡り勤めてきたCDU党首の座を降り、首相の座も現任期期間中が最後であることを表明した。ドイツの政治は歴史的転換点を迎えていると言っても過言ではないだろう。

そして、続く今年2019年も将来のドイツの行く末を決定的にする政治イベントがある。5月にまず欧州議会選挙があるが、それ以上に早くも注目されているのが、秋に実施されるザクセン、テューリンゲン、ブランデンブルクの旧東ドイツ3州の州議会選挙である。ここでのテーマは言うまでもなく、既存の民主主義政党VS右派ポピュリスト政党AfDである。

AfDは難民が大量に押し寄せた2015年以降ドイツで急速に勢力を伸ばしてきたと一般的には言われている。しかし、以前にも書いたことがあるが、その支持率は地域によってかなりの隔たりがある。AfDは昨年のバイエルン州議会選挙では10,2%、ヘッセン州では13,1%の得票率だった。この時点でのAfD支持率がドイツ全体で17%程度の支持を集めていたことを考えれば、この数字はそれ程高くはない。

一方で、旧東ドイツの地域でAfDは軒並み20%以上の支持率を記録しており、非常に強い勢力を維持している。2016年に旧東ドイツであるメクレンブルク・フォアポンメルン州、ザクセン・アンハルト州で州議会選挙が行われたが、ここでAfDはそれぞれ20,8%(1位)、24,3%(2位)の得票率だった。

とりわけ、ザクセンはまさにAfDの牙城とも言える地域である。間違いなく、ザクセン程ポピュリズムと右翼の活動が活発な地域は無いであろう。難民問題以前もペギーダと呼ばれる反イスラム運動が勃発し、昨年はケムニッツで難民犯罪から右翼の暴動に発展した事件は記憶に新しい。現在ザクセンはCDUが圧倒的多数で最大与党であり、SPDがこれに加わり連立政権を築いている。しかし、最新のアンケートによるとCDUが29%で依然として最大勢力を保っているが、25%でAfDがそれに続いている。

ブランデンブルクは伝統的にSPDが常に最大与党の地位を保っており、現在はこれにDie Linke(左翼党)、Grüne(緑の党)を加えた左派政権である。しかし、知っての通りSPDは昨今完全に崩壊しており、2014年の選挙時に31,9%あった支持は現在およそ20%にまで落ちた。そして最新のアンケートではAfDもおよそ20%の支持を既に集めており、第一党に迫る勢いとなっている。

テューリンゲンは現在議会での最大勢力はCDUであるが、政権を担当しているのはこちらもSPD、Die Linke、Grüneの左派政党である。しかし、今年の選挙でこの旧東ドイツ3州の中で最も厄介な状況になりそうなのがテューリンゲンである。と言うのも、最新のアンケートでは、CDU23%、Die Linke22%、AfD22%という中道、極左、極右が完全に分散した三つ巴の状況になっており、結果次第では連立政権を構築するのが極めて難しい状況に陥る可能性がある。

また、テューリンゲンと言って思い浮かぶのが、この州のAfD議員団ボスであるビイェルン・ヘッケである。ヘッケはAfDの中でも特に右翼的な発言で世間に物議を醸しており、その発言を聞く限りもはや極右に近い印象すら受ける。

一般的にAfDには既存政党の政治に不満があり、それに対する抗議の意味で投票している有権者が多いとされる。しかし、これらの旧東ドイツの州でAfDは既にその思想に共感する支持層を持っており、短期間で大幅にその勢力を減らすのは現段階では難しいと見られている。

そして、今年行われるこの旧東ドイツ3州の選挙で更にAfDが躍進、つまり州議会の最大勢力になる、或いは間違って政権入りするような事態になれば、ドイツ全体の政治が一気にポピュリズム的なものに傾く公算が高くなる。また、再び認知されつつあった旧東ドイツと西ドイツの政治的分断は決定的になる。

一方で、このAfDの牙城とも言える旧東ドイツで、幾らかでもAfDを弱体化する事に成功し、既存の民主主義政党が復活するのであれば、ドイツの政治は再び理性的な議論による民主政治を取り戻せる。いずれにしても、2019年はかつてない程旧東ドイツの情勢が注目される事は間違いない。

そして、ここでまず個人的に注目しているのが、新たなCDU党首に就任したアンネグレート・クランプ=カレンバウアーが、AfDに対しどのような手を打って来るのかと言う点だ。同じくCDUの党首に立候補し僅差で敗れたフリードリヒ・メルツはAfDを半減させると豪語し、事実その期待を集めていた。一方この党首選で勝利したクランプカレンバウアーはこの点においては元々それほど期待されていなかった。

しかし、もしも彼女がAfDの弱体化に成功し、CDUを勝利に導く手腕を証明することが出来たなら、次期首相の座が一気に近づくのは間違いない。メルケルもゼーホーファーも、AfDから失った票を取り戻す事は出来なかった。寧ろ、醜い内輪揉めでAfDの躍進を後押しした。

もう一つ、昨年劇的に躍進したGrüneが旧東ドイツでも成功を収める事が出来るのかと言う点だ。これまで、Grüneはこの地域では弱かったが、言うまでもなくドイツでは環境問題が昨今大きなテーマになっている。そして、GrüneはあらゆるテーマにおいてAfDとは対極をなす政党だからだ。

AfDもこれまで支持を得てきた難民問題、反イスラムの一辺倒では限界がある。地球温暖化は真っ赤な嘘だと主張するAfDが有権者の共感を得ることができるのか。あらゆるテーマの総合パッケージを充実させてこそ、更なる躍進がはじめて可能になるだろう。