ドイツ総選挙、中道左派SPDが保守CDU/CSU連合を僅かに上回る

昨日はドイツ連邦議会の総選挙が行なわれ、中道左派政党であるSPD(社会民主党)が、保守のCDU/CSU連合を僅かに上回り勝利を飾った。ひとまず主な政党別の得票率を以下に記しておく:

SPD(社会民主党):25,7%
CDU/CSU(キリスト教民主/社会同盟):24,1%
Grüne(緑の党):14,8%
FDP(自由民主党):11,5%
AfD(ドイツの為の選択肢):10,3%
Linke(左翼党):4,9%

おそらく、半年前にこの結果を予想した人はかなりの少数派になる。ここ数年間、ほんの数ヶ月前まで、SPDは記録的な低空飛行を続けていたからだ。長い間、今回の総選挙はCDU/CSU連合とGrüneの争いであり、選挙後はその両勢力が連立政権を組む事が最も順当だと見られていた。それが選挙が近づくにつれ、SPDが突如復活して勝利するに至った訳である。

当然ながら、SPDに逆転を許したCDU党首ラシェット、Grüne党首ベアボックに対する風当たりは強いのは言うまでもない。しかし、ここ数年CDUメルケル政権下のドイツを振り返れば、空前の好景気の一方で格差が増大し、更にコロナ・パンデミックで一部の金持ちを除き大多数の庶民の生活は苦しくなった。やはり多くの人々は大きな政府を次の数年間は望んでいると言う事だろう。

もう一つの重大なテーマである環境問題については人々の意識も高まり、緑の党は空前の高い支持率を持続した。また緑の党はSPDとかなり似通ったリベラルな政策を掲げており、一時はSPDの支持層をごっそり奪いとる事に成功した。

しかし、やはり現実に環境政党がドイツの政権の中核を担うとなると、生活における様々な制限が加えられる事が予想され、選挙直前になって敬遠された部分があるのではないか。その結果、やはり伝統的な中道左派であるSPDに再び支持が集まったと思われる。

私もドイツ版ボートマッチサービスであるWahl-O-Matで自分に考えが最も近い政党はどこか診断したところ、SPDと言う結果になった。特にもともとSPDの支持者でなくとも、同じような結果だった有権者は多いのではないか。

また忘れてはならないのが、一方で経済リベラル政党であるFDPが高い得票率を記録した事だ。特に社会経済のデジタル化はFDPの重点政策であり、この分野でドイツに大幅な改善の余地があるのは誰もが知るところでもある。

さて、この選挙の結果を受けて注目されるのはどの政党がどの政党と連立政権を組むかと言う点になる。現在はCDU/CSU連合とSPDによる大連立政権、ドイツ語でいう”Große Koalition”である。そして、新たな連立政権として現実的に考えられるのはこれまでの話を聞く限り2パターンに限定される。

そのうち最も可能性が高いのはSPD(赤)FDP(黄)、Grüne(緑)による「信号機連立政権」、ドイツ語で言う”Ampel Koalition”である。この場合、首相は順当に行けばSPDのオラフ・ショルツになる。

そして何かの事情でこれが頓挫する場合可能なのが、CDU/CSU連合(黒)、FDP(黄)、Grüne(緑)による「ジャマイカ連立政権」である。この場合首相は順当に行けばCDUアルミン・ラシェットになる。

数字の上では引き続きCDU/CSU連合とSPDによる大連立政権は可能だが、これは両党とも既に難色を示しているだけでなく、国民もウンザリしており、これはおそらく無い。つまり、次の連立政権を成立させるにはいずれにしてもFDPとGrüneが入る事が前提となる。事実、連立政権交渉はまずFDPとGrüneの合意が探られており、まずはこの結果が注目される。

大きな政府を謳う環境政党であるGrüneと自由経済主義を謳うFDPは水と油の関係に見えるが、外交面やデジタル化などでは似たような主張であり、決して不可能とは見られていない。と言うか、ここで両者の合意が頓挫するようであれば、連立政権が成立するまで長期戦になる可能性が高い。

そしてこの両党が合意を得た後、SPDと政権を組むか、CDU/CSU連合と政権を組むかの決定になる。GrüneはSPDを好み、FDPはCDU/CSU連合を好んでいるのは周知の事実だが、選挙結果から見れば、SPDが最大与党として政権に入るのが順当だ。

尚AfDはどの政党からも連立を組む事を拒否されており、政権入りする事は無い。東ヨーロッパであるようなポピュリスト政権が誕生する可能性は少なくとも今回は全くない。4年前の総選挙では連立政権の成立までかなり時間がかかったのだが、今回はスムーズな連立政権交渉を期待したい。個人的には現在の社会情勢を反映した非常に妥当で、良い選挙結果結果になったと思っている。