ドイツ政府、高騰するエネルギー価格による国民への救済措置を決定する

ロシアのウクライナ侵攻でただでさえ劇的に上昇していたエネルギー価格が、更に上昇する可能性が高いのはもはや周知の事実である。今年のインフレ率は全体で5,1%から6,1%、特にガスに関しては既に今年の初めの時点でおよそ83%も上昇していると言われており、今後もロシア依存から脱却するのはそう簡単では無い。私も今年の暖房代の後払いの請求書に戦々恐々としていた所であるが、やはりドイツ政府は国民向けに救済措置を決定した。

まずは最大の目玉が、すべての納税者に対し300ユーロの一時金が支給される。これは毎月の給料とともに支払われ、課税の対象となる。と言う事は、300ユーロは税込の金額で、実際に貰える金額はそれよりも少なく、低所得者ほどメリットが多い。自営業者は税金の前払いの際に割引されるとの事だ。

子供一人あたり子供手当が一回限り100ユーロ追加される。因みに現在の子供手当は2人目までは一人あたり219ユーロ(約2万8千円)、3人目は225ユーロ、それ以降は250ユーロである。

3ヶ月間ガソリンの価格が1リットルあたり30セント、ディーゼルの価格は14セント値下げが実施される。これは燃料に対する税率を一時的に下げる事で実施する。因みに現在のガソリンの価格は平均で1リットルあたり2,07ユーロ(約270)ディーゼルは2,18ユーロ(約283円)である。

更に公共の交通期間のチケットが90日間限定で1ヶ月9ユーロになる。現在ミュンヘン市内の1ヶ月チケットがおよそ60ユーロなので、かなりの格安になる。

もともと、このような救済パッケージが来るのは誰しも予想していた事であるが、個人的にはかなり手厚いと感じている。コロナパンデミックで既に史上最大規模の救済措置を実施した後に、これほどの手厚い措置を実施できるとは、過去数年で余程国家財政は潤ったのだろう。CDUメルケル政権で頑なに拘った黒字財政の恩恵かも知れない。もっとも、それも多分、ロシアからの安いエネルギーがあったからこそと今となっては納得する。

内容を見れば、目玉である300ユーロの一時金を除けば、現在政権を担当しているSPD、Grüne、FDPの意向がそれぞれ反映された形になったように見える。具体的には、子供手当の増額はSPD、燃料の割引は自動車業界と繋がりの強いFDP、公共交通機関の格安チケットは言うまでもなくGrüneの意向だろう。

とにかく、現状から言えば、国としてはいち早くロシアからのエネルギー依存を脱却すると同時に、ガス、オイルから再生可能エネルギーへの転換を更に推し進める以外ない。

因みに、ロシア以外からのガスの輸入先として現在有力なのがカタールである。先日カタールには経済環境相のハベックが自ら赴きエネルギーにおけるパートナー契約を締結したとの事である。

しかし、これも実際に実現するかは怪しい。少なくとも、すぐにカタールからガスが入って来る事はない。カタールはドイツがロシアのガス依存から脱却する事は短期的には不可能と見ている。誰も単なるロシアの埋め合わせとして、取引の契約などしたくはない。

一方ドイツから見てもカタールの人権問題などは既に国際的に有名で、決して民主的な国家とは言い難い。そう言う意味では現在の事情が無ければ本来は積極的に取引したい国ではないだろう。そもそも、私の偏見かも知れないが、この辺の人は約束とか契約とかに無頓着なイメージがある。先日もカタールはパートナー契約を締結した後で、やっぱり配送出来ないかもとお茶を濁していたので、正直「やっぱりな」という感想だ。

つまり、これはハベックも既に認めたが、来年の冬もロシアのガスを当てにせざるを得ない。数年にわたり構築してしまったシステムをいきなり数ヶ月でひっくり返す事など、常識的に考えても不可能だ。まあ、そう言う意味では今回の国民に対する救済措置は当然とも言える。とにかく戦争が早く終結してくれる事を祈るのみだが、それも現在の状況では期待薄だろう。