ドイツは昨年末より新政権が発足した。そしてこの新政権が取り組むべきもっとも重要なテーマの一つが、環境保護と経済成長をどう両立させるかである。新政権はこの担当省を経済エネルギー省から経済環境保護省に名前を変更し、大臣に緑の党ダブル党首の一人、ロベルト・ハベックを任命した。ハベックは更に副首相でもある。
つまり、これらのポストにハベックが来た時点で、ドイツは環境保護に対して断固として取り組む姿勢を明確にしたと言える。しかし、そのドイツ新政権にいきなりEUから強烈なパンチが来た。EUはドイツが忌み嫌う原発を環境に好ましいとして分類し、今後の投資を促す案を提出したのである。
この提案が決定される事でどれ程の影響があるのかは不明だが、EUがそのようなお墨付きを与えれば、原発への投資が増加しEUの国々が今後新たな原発を建てやすくなるのは間違いないだろう。ドイツは当然これに猛反対している。
知っての通り、ドイツは2011年の福島原発事故以降、脱原発の姿勢を明確にしており、昨年末に3つの原発を停止した。ドイツに残る原発は3つのみで、これらも今年の年末に停止する。つまり、2022年でドイツは国内の原発を全て停止し、一応の脱原発を果たす予定である。ドイツは隣国から原発の電力を輸入していると揶揄する声も未だにあるが、それ以上に電力を輸出しているので、ケチをつけるような話ではない。ドイツ同様、オーストリアもこれに猛反対している。
一方この案を支持しているのが、フランスやポーランドである。
フランスは誰もが知る原発大国であり、私が知る限りEU内にある100基ちょっとの原発のうち半分以上がフランスに存在する。原発の発電割合は以前よりは若干落ちているが、それでも全体の7割に上る。更にポーランドはもともとチェルノブイリの事故から原発反対の国だったらしいが、現在は右傾化が著しくイケイケの原発推進に変貌した。
つまり、ドイツは東西の隣国が原発推進であり、仮に事故など起こった場合甚大な影響が出る。せっかく自国の原発を停止して、ノルウェーと提携して自然エネルギーを推進しても、原発の事故に巻き込まれるリスクはほぼそのまま残る。
はっきり言えば原発が環境に優しいなどとは私は全く思わないが、福島の事故から10年も経っており、人々もその危険性を忘れつつある。そもそもヨーロッパには地震が殆ど無い。更に現在は地球温暖化が最大の問題なので、一応Co2をあまり出さないとされる原発は取り敢えず今後も必要な電力源と言う事になる。
更にこの案をボツに持ち込むには、EU全体の人口65%を含む27ヶ国中20ヶ国が拒否権を発必要があるらしく、これは極めて非現実的で、防ぐのは不可能と見られている。
もっとも、EUが該当の原発を環境に好ましい投資先と認定するには条件がある。一つは最高の安全性が確保されている事はもちろんだが、もう一つは高レベル放射性廃棄物処理の計画を提出しなければならない。この問題はドイツでも紛糾しており、おそらく計画すら簡単ではない。
因みにEUは原発と同時に天然ガスをクリーンな投資先に分類したが、ドイツはこちらは容認する方向である。天然ガスは水素発電が実用化するまでの繋ぎとして重要視されており、わざわざ仲の良くないロシアからパイプラインまで引っ張ってきた。これはまた別の意味で問題視されているが、緑の党が政権に入った今、炭素は当然ダメ、原子力もダメ、ディーゼルも、石油もダメ、これでガスまでダメとなるとさすがに厳しいだろう。