ドイツで流通している通貨は知っての通り「ユーロ」である。ユーロの下の単位としては「セント」が存在し、100セントで1ユーロとなる。現金を利用する場合は、200ユーロ、100ユーロ、50ユーロ、20ユーロ、10ユーロ、5ユーロ紙幣および、2ユーロ、1ユーロ、50セント、10セント、5セント、2セント、1セント硬貨が手に入る。
つい最近まで500ユーロ紙幣も存在したが、これは高額すぎて廃止された。1ユーロはおよそ120円、つまり500ユーロ札は日本で言う6万円札になる。これで高額の現金を容易に貯蔵したり運搬するなどが可能になり、テロやマネーロンダリングの犯罪に利用されている事が懸念されており、偽造紙幣のリスクも高くなる。多くの小売店は500ユーロ札での支払いを断っていた。
そして更にこの度、EUは最も少額の貨幣である1セントおよび2セント硬貨の廃止も検討している事が判明した。最も大きな理由は、硬貨製造のコストの増大である。というのも我々一般消費者はこれらの少額貨幣を殆ど利用しない上に、紛失率も極めて高いのでこれらの硬貨は市場に戻って来ない。一方で、小売店はお釣りを返すのに常にこれらの硬貨を常備しておく必要があるので、これが不足しない為にも常に製造され続ける。
結果2002年にユーロが導入されて以降、この1、2セント硬貨の製造量は増える一方で今では当時の4倍にもなった。更に1セント硬貨の鋳造コストは1,65セント/個と言われており、つまりその貨幣自身の価値よりも製造コストの方が高い。完全な赤字商売である。
また、多くの消費者側からしてもこの1、2セント硬貨は非常に煩わしく、先に述べたように殆ど利用する事が無い。知らぬ間に溜まっていき、財布を重たくする。小売店側も硬貨を常備し、返却に利用するのは煩わしいのではないか。現在ではEU域民の64%がこの1、2セント硬貨の廃止に賛成しており、デジタル化が進む世の趨勢を考えても、当然の帰結と言える。
さて、実際にどのようにして1、2セントを市場から撤廃するかであるが、これは既に実際に幾つかの国で実例がある。具体的には、オランダ、イタリア、フィンランドは既に1、2セント単位の買い物は切り下げ、切り上げをして5セント単位で釣り銭を返しているそうだ。これらは日本人の感覚からすれば単に「いい加減」「不誠実」などで片付けられそうだが、れっきとした理由があって行なっている事だ。
また、小売店などで表示される価格そのものは必ずしも5セント単位で表示しなければならない訳ではなく、例えば1,99ユーロなどの表示も問題ない。あくまで現金で払えば2ユーロとして扱われ、クレジットカードなどのデジタル決済の場合は、表示通り1,99ユーロの支払いとなる。確かに、表示価格まで5セント単位に義務付ければ、おそらくこれに託けて多くの小売店は値上げをするだろう。
個人的には、この1、2セント硬貨を廃止すると言うEUの意向には賛成であり、一刻も早く実行して頂きたい。そもそも、現金を利用する事自体が最近はめっきり減った。ドイツはヨーロッパの中でも特に現金取引を好む国と言われており、スウェーデンのように現金そのものを廃止する事はまだ暫くないだろうが、時代の流れから言っても、現金自体の流通量も今後は減少傾向になり、デジタル決済が一般化していくだろう。