ドイツがイタリアに初勝利を上げた、EURO2016準々決勝を振り返る

ドイツとイタリア、両国とも世界トップを争うサッカー強豪国である事に疑いの余地はないが、長年破られる事のなかったジンクスに「W杯、EUROにおいてドイツはイタリアに勝てない」と言うものが存在した。私が観戦した限りでも、2006自国W杯の四強戦、EURO2012八強戦でドイツはいずれもイタリアに敗れた。特にEURO2012の時は圧倒的有利が囁かれながらヨアヒム・レーヴの戦術ミスで惨敗を喫した。

そしてこの両国は続くEURO2016でも8強で対戦している。戦前の力関係で言えば、2012年よりも更に「ドイツ圧倒的有利」との評価は揺るぎないものだったと言える。2014年W杯優勝よりフィリップ・ラームが引退した以外は、依然として世界トップクラスの選手を揃える優勝候補ドイツに対し、個々の選手を見ればイタリアは随分と小粒になった。事実この年3月のテストマッチにおいて、ドイツはイタリアを4-0で勝利し圧倒的な力の差を見せつけた。

しかし、イタリアはグループリーグでダークホースと目されたベルギー、16強でドイツ、フランスに続く優勝候補と言われたスペインに完勝している。イタリアの強さは相手の良さを消す完璧な戦術戦を遂行できる事だ。そして一瞬の隙をつきゴールを陥れ、これを守り切る。イタリアの知将アントニオ・コンテはテストマッチでドイツとの力の差を認識した上で、適切な弱者の戦術でドイツを苦しめる事は間違いない。

一方ドイツはこの大会、一貫して4-2-3-1のシステムで勝ち上がってきたが、この大会初の強豪国相手となるこの試合、敢えて攻撃の選手を一枚削り中央を固める3-5-2システムに変更した。ヨアヒム・レーヴは前回のEURO2012ではメンバーを変更して失敗したが、今回も奇策を弄し、かなりイタリアを意識している事が窺える。試合は知力と知力のぶつかり合い、強豪国同士の極めてレベルの高い戦術戦になる事が予想された。

そして試合は予想通り、両者とも相手の良さを警戒する慎重な試合運びを見せる。ゆっくりとボールを動かしつつ隙を窺うドイツに対し、イタリアはゴール前中央を固め、ドイツの心臓、トニ・クロースを徹底的にマークする。試合は極度の神経戦、戦術戦の様相を呈してきた。

試合が動き始めたのは前半終了間際42分、ドイツはクロースのミドルシュートのミスキックが最後ペナルティエリア内のミュラーの足元に転がるが、最後ミュラーのシュートはヒットせず。一方イタリアはオフサイドトラップのミスからジャケリーニがドイツ守備陣の裏へ抜け出し、マイナスのクロスを送るが、誰も詰めておらずドイツは事なきを得た。

前半はこのまま両チーム無得点で終了した。しかし、試合途中のデータによるとイタリアの選手の走行距離はドイツのそれを遙かに上回る事が中継で指摘された。

そして、後半が始まり暫くするとイタリアの選手に疲れが見え始めたのか、前半に徹底マークを受けていたクロースにボールが渡るようになり、ドイツは徐々にリズムを掴みつつある。この時間帯にイタリアはイエローカードをもらうなど、守備が後手後手になる場面が散見されるようになる。

そして65分、左サイドでボールをキープしたゴメスは後方からペナルティエリア内に走り込んできた左サイドバック、ヘクターにパスを通し、更にヘクターはこれを中央に折り返す。ここにエジルが飛び込みドイツが待望の先制点を上げる。そして私はこの1点でドイツの勝利をほぼ確信した。ボールを持って攻めて来なければならないイタリアに、怖さは感じない。今回のイタリアには何如せん中盤でボールをキープ、或いは違いを生み出せるクリエイティブな選手がいないからだ。

1点を先取した後、よりスペースを得たドイツの動きが一層よくなり、3分後にはエジルの完璧なループパスからゴメスがイタリアの息の根を止める決定的チャンスまで得た。しかし、これはゴールならず逆にゴメスがこのプレーで負傷してしまう。

ゴメスはこの大会ドイツ唯一のFWであり、前線にターゲットを欠いた状態となった。前線深くまでボールを運べなくなったドイツに対し、イタリアが前方へボールを送る場面が増えてくる。その攻めに全く怖さは感じないが、差は僅か1点、何が起こるかわからない。そして77分、恐れていた事態が現実となる。

イタリアは右サイドから単純なクロスを放り込んできたが、これに中央のボアテングは両手を上げて寄せに来た。腕を使ってない事をアピールするつもりだったのだろうが、運悪くこの手にボールが当たってしまい、ドイツはまさかのPKを献上してしまう。イタリアはこれをボヌッチが決めて同点に追いついた。

こうなると地力に劣るイタリアは再び得意の守備を固めはじめる。前線にターゲットを欠いたドイツがイタリアの守備をこじ開けるのは至難の技で、もはやPK戦への突入は避けられない。残り時間よりリスクを冒して攻めたのはドイツだったが、案の定、延長戦になっても決定的なチャンスを得ることなくPK戦の地獄に突入した。ノイアーとブッフォン、世界最高の2人のGK対決となった