ドイツ代表がまさかの惨敗を喫したロシアW杯から既に1年半が経ち、今年の6月には次なるビッグトーナメントEURO2020が開催される。ドイツ代表はヨアヒム・レーヴこそ監督の座に留まったものの、選手の大幅な若返り押し進めている際中でもある。更にはロシアW杯に際し壊滅的なマネジメントで世間に物議を醸したラインハルト・グリンデルも協会のトップから退いた。ロシアW杯は国内の盛り上がりにも欠けた最悪の大会だったが、このEURO2020はピッチ内外で生まれ変わったドイツ代表を見る事ができるだろう。
しかし、今回のドイツ代表は間違っても優勝候補では無い。まずはグループリーグでいきなり、フランス、ポルトガルという強豪と同組になった。これは、考えられ得る中でも最悪の組み合わせと言え、下手をすればロシアW杯に続くグループリーグ敗退も十分にあり得る。
更に私が現時点でドイツを優勝候補に推せない決定的な理由が、昨年9月に行われた予選のオランダ戦である。この試合でドイツは後半オランダに力の差を見せつけられ2-4で惨敗した。とにかく、90分を通して安定感が無い。そして、これは後にも先にも守備力の低さに起因するだろう。後方の選手で安心して見ていられるのは、GKのノイアーだけだ。衰えたとは言え、まだまだ世界トップクラスのGKである事は間違いない。
しかし、その前方に位置するDF陣はとても危なっかしくて見ていられない。まともな仕事ができるのは前半だけで、後半は完全にザルとなる試合を何度も見た。その中で唯一「割と」安心して見ていられたズューレは膝の靭帯を断裂し、本大会に間に合うか微妙な情勢でもある。もしも間に合わなけば、一度代表からお払い箱としたマッツ・フンメルスを呼び戻す可能性もゼロでは無い。
何れにしても、フランスのムバッペ、グリーズマンらの強力攻撃陣は勿論のこと、大ベテランとなったポルトガルのロナウドでさえドイツ守備陣が抑え込める姿は現状全く想像できない。残りの半年でチームとしての完成度をアップさせるだけでなく、選手個人の大きな成長が不可欠だろう。安定した守備力なくして、EURO優勝は有り得ない。
もっとも、不安だらけの守備に比べれば、ドイツ代表の攻撃力はおそらく出場国中でもトップクラスに入る。事実、多くの試合で強豪国相手にも2点以上を奪っており、本戦でもこちらはそこそこ計算できる。
その攻撃陣の中でも、ロシアW杯以降最大の発見はFCバイエルンのセルジュ・ニャブリだろう。ニャブリがチームにフィットした事で、ドイツはこれまで抱えていたFWの不足による深刻な決定力不足と、1対1に強いドリブラーの不足と言う慢性的な問題を劇的に改善させた。
全体を見渡しても、メンバーもロシアW杯時のようなパスワークに拘った選手に偏っていない。元々チームで重宝されたクロース、ギュンドアン、キミッヒと言ったパサーに加え、先に挙げたニャブリ、サネと言ったといったスピードのあるドリブラーが加わった。これにオールラウンダーのロイス、10番タイプのハーヴァーツ、高さもあるゴレツカが加わり、バランスの取れた良いメンバーを揃えている。攻撃に関してはポテンシャルは十分だ。
もっとも、攻守の要となるキミッヒはその攻撃センスの反面、メンバー構成から言えば守備に専念してほしいポジションでもある。このキミッヒが調子に乗って前方にばかりに顔を出すようであれば、とんでもないシッペ返しを食らうだろう。チームを正しくコントロールできるか、ドイツ浮沈の鍵を握る選手でもある。
ドイツが上位進出を果たすために、最も重要な試合となるのがミュンヘンで行われる初戦のフランス戦だろう。フランスは現状では言うまでもなく格上だが、だからと言って中途半端に引き分けを狙いに行くのは下策だ。寧ろ、結果敗れても世界チャンピオン相手に良い内容を見せる事が出来れば、その後の戦いにおいても自信になる。グループ3位でも突破の可能性があるだけに、地の利を活かした真っ向勝負を挑む事を期待したい。この試合に関しては開幕前にプレビューを書くつもりだ。