退場者を出したドイツ、格下エストニアに苦戦する

先週の日曜日にドイツはアウエーでEURO2020予選、エストニアと対戦した。ドイツは昨年のホームでの試合でエストニアには8-0の大差で勝利している。今回もスタメンにはロイス、ブラント、ハーヴァーツ、ギュンドアンといったテクニカルな選手を同時起用し、守備的な選手を1枚削り4バックを採用した。明らかに引いた相手を崩す事を意図した布陣である。ニャブリは負傷により欠場だが、これは寧ろ休息の意味合いが強いだろう。

アウエーとは言え、誰がどう見てもドイツの勝利は堅い。何点差をつけて勝利できるかがテーマとなる。しかし蓋を開ければ試合は意外な展開となった。試合開始早々から、予想通り圧倒的に試合を支配するドイツだが、事件はいきなり前半14分に起こる。

自陣PA近くで相手のプレスを受けたズューレはこの日CBに入ったチャンに緩い横パスを出した。チャンはこのパスを受けずに一旦後方に流して処理しようとしたが、これを背後から狙っていた相手FWに奪われ絶体絶命のピンチとなった。チャンは慌ててタックルに行ったがこれがファウルを取られ、一発レッドを食らう。前半14分での退場はドイツ代表史上最速である。

10人となったドイツはキミッヒを4バックの位置まで下げ、ロイスが頻繁に中盤まで下りてくる事で取り敢えず急場を凌ぐ。しかし、時折逆襲を食らい失点のピンチを迎える場面もある。攻めても狭い位置を過度に複雑な攻めでボールを失いシュートまで持ち込めない。

39分にロイスのフリーキックがバーに当たったが、これがドイツ前半唯一のチャンスだった。楽勝と思われた試合は思わぬ大苦戦の様相を呈し、下手をすれば負ける恐れがある展開である。スタンドからは”Löw raus!”=「レーヴ出て行け!」のチャントが聞かれた。

しかし、後半51分ドイツは混戦から溢れたボールをギュンドアンがミドルシュートをぶち込み何とか先制点を奪う。57分には右サイドのコンビからロイスが後方にヒールパスを出し、これを再びギュンドアンがシュートを放つ。これが相手DFに当たってコースが変わりゴールに転がり込んだ。これでドイツは一旦ペースを落として、ボールキープに専念するようになる。

そして、71分には交代で入ったヴェルナーがギュンドアンからのロングパスを受け、相手DFを外して得点し勝負を決めた。10人のドイツは単発ながら反撃を食らうものの、そのまま無失点で切り抜けて3-0で勝利した。

76分間を10人で戦うという想定外の事態だったが、これはまさに相手が弱すぎたので助かったといえるだろう。本戦でこのような事態になれば、良くてせいぜい引き分けに持ち込めるかだ。これは最終ラインながら余りにもルーズにプレーしたチャンのミスであり、レッドカードは妥当だ。

チャンは前回のアルゼンチン戦では3バックの一角に入り良い働きを見せた為、今回の抜擢となったと思うが、やはり、本来守備的MFの選手であり、まさに急造故の致命的ミスが出たのではないか。また前回は3バックだった為中央にもう一枚DFがいたが、今回は4バックでチャンはまさにGK前の最後の砦となった。

しかし、チャンは現在のドイツでは数少ない汚れ役に徹することの出来る守備のオールラウンダーでもあり、本戦には連れて行くべき選手だ。今回のミスを良い学習材料とみなし、今後もチャンスを与えるべきだろう。

一方、この試合で2得点、1アシストと活躍したギュンドアンは明るい材料だと言える。特にテクニカルな選手が狭い位置をやたらと複雑なコンビネーションで崩す事に腐心する中、ミドルシュート、隙を突いたロングパスで得点に結びつけた戦術眼、冷静さは評価できる。

ボランチの2枚はキミッヒとクロースで固定されている感もあるが、ギュンドアンをベンチに置いておくのはさすがに勿体無い。場合によっては1列上げてトップ下で起用しても良いのではないか。

もっとも、チームとしてはやはり大型FWは1枚欲しい所でもある。無い袖は振れないので、現在これを望む事はできないが、遅くとも自国開催であるEURO2024には間に合わせて欲しいところだ。

最後に、この日「出て行け」コールを受けたレーヴについて言及しておきたい。この試合に関しては多くの欠場者の中で行われたものであり、その中でチャンを4バックに起用するのはやむを得ない選択だと言える。

また、前半14分の退場も個人レベルの絶望的なミスであり、実際に監督がこれをコントロールする事は不可能である。したがってこの試合の苦戦で監督を非難するには値しない。レーヴ自身もスタンドからのコールは「ファンの当然の権利」と受け流している。

しかし、レーヴの契約は2022年まであるとは言え、明らかにマンネリ化、限界が見え始めているのも事実だ。昨年のW杯グループリーグ敗退は歴史的な失敗も含め、来年のEUROの結果、内容が悪ければ、任期満了を待たずして退任する可能性は十分にあるだろう。