ドイツ、ホームでオランダに力負けを喫する

金曜日にEURO2020の予選、ドイツ対オランダ戦がハンブルクで行われたので感想を記しておきたい。ドイツは予選段階でオランダと同組になっているが、2位以内に入れば本戦には参加できるので、この試合に敗れたとしても直ぐに予選突破自体が危うくなる訳ではない。

しかし、ドイツにとってこのオランダ戦は、現在の実力を把握し、EURO本戦を占う意味でも非常に重要な試合となる。言うまでもなく、この試合でオランダ内容で凌駕し勝利する事ができれば、優勝に向けて大きな弾みになる。

昨年行われたアウェーでの試合は、終了間際ゴールデンジョーカーとして出場したマルコ・ロイスの活躍で3-2で勝利した。ドイツはこの試合も昨年取り入れて以降機能している3-4-3のシステムを引き続き採用した。レロイ・サネを怪我で欠く以外は、概ね昨年と同じスタメンだ。

試合は、オランダが開始間際から激しいプレスをかけてくるが、ドイツは落ち着いてこれを凌ぐ。逆にドイツはボールを奪ってから縦に速い攻めでオランダゴールを脅かした。そしていきなり9分、オランダ守備陣の裏に飛び出したクロースターマンがGKと1対1となり、このシュートのこぼれ球をニャブリが決めてドイツが先制した。これは中盤の底からファン・ダイクの裏に通すキミッヒの見事な縦パスが起点となった。

その後も概ねオランダがボールを支配する展開が続くものの、ドイツは両サイド及びFWのスピードを活かしたカウンターで応酬する。42分にはロイスがクロースのパスから決定的なチャンスを得るが、これはGKに防がれた。結局、前半は1-0でドイツがリードして終了。しかし、直近の試合を見る限りドイツは後半にペースが落ちる。ロイスが決定的なチャンスを逃したのは痛い。

そして後半、予想通りオランダが攻勢をかけてきた。最初の10分程度はカウンターで応酬したドイツだが、次第にオランダの高い位置でのアグレッシブなプレスに対応出来なくなってくる。そして59分、オランダは左サイドからのクロスにデヨンクが飛び込み同点に追いついた。ドイツは右サイドの緩いチェックであっさりとクロスを許したばかりか、中央はほぼガラ空きというお粗末な守備で、これではノイアーもノーチャンスだ。

ドイツは61分、この日精彩を欠いたヴェルナーに代えハーヴァーツ、ロイスに代えてギュンドアンを投入する。オープンな展開を嫌ったレーヴが、中盤でボールキープし落ち着きを取り戻そうという意図が見える。ドイツは縦への速いカウンターから一転してポゼッションサッカーへ切り替わった。

しかし65分、コーナキックからファン・ダイクが打点の高いヘディングシュートを放ち、このこぼれ球の混戦からターがオウンゴールを献上しオランダが勝ち越す。ターは最初の失点でもまずいポジショニングで決定的なミスを犯しており、極めて心象が悪い。

同点に追いつきたいドイツは73分、左サイドをシュルツが果敢に突破しようと試みる。このタッチライン間際からのクロスをデリフトはタックルでブロックしたものの、ここでふわりと上がったボールがPA内でデリフトの腕に当たり、ドイツはラッキーなPKを獲得する。これをクロースが決めて同点に追いついた。

このPKはドイツにとってラッキー以外の何物でもなく、テレビの解説者、そして監督のレーヴまでもこれは「PKではない」と述べる程の完全なミスジャッジだった。もっとも、劣勢の中左サイドで多くの攻撃に絡むシュルツは評価できる。この日はパスミス、ボールロストも多かったが、私の中での評価は悪くない。

いずれにしろドイツは同点に追いついた。残り15分、強豪国同士、勝負を決する激しい攻防が期待された。

そして、この残り15分の攻防を制したのはオランダだった。79分、オランダは高い位置からのプレスからドイツ右サイドでギンターのパスミスを誘発し、素早い攻守の切り替えから鮮やかなコンビネーションで勝ち越しゴールを奪った。ここではドイツの守備陣を切り裂いたデパイの見事なスルーパスが光った。見事と言うほか無い。

ドイツはここでギンターに代えてブラントを投入し一か八かの賭けに出るが、これはオランダのカウンターの格好の餌食となり、終了間際に4点目を食らう。勝負どころの残り15分でオランダは圧倒的な力の差を見せてアウェーでドイツに勝利した。

この試合を総じて言えば、まさにドイツの力負けという他ないだろう。私が見る限り、近年ここまで内容で凌駕されて敗北したのは2010年W杯のスペイン戦以来ではないか。もちろん、負け試合は昨年のW杯を含め何度も見てきたが、それらは明らかな監督の戦術ミスや個人レベルの絶望的なミス、或いは酷い決定力不足に拠るもので、中盤を支配されて負けた試合というのは、ここ数年は記憶にない。

固い守備からのカウンターで機能しているように見えた前半も、試合後のズューレのインタビューによると実は想定外で、ドイツは本当は序盤から中盤を支配したかった。前半に予想以上に走らされて、後半はガス欠となりオランダの猛攻を受ける形となったと言うのが実情だろう。オランダは予想以上に強く、まさに総合力で負けた。

そして、惨敗を喫したドイツの中でも大きな懸念材料として指摘したいのが、後半オランダの圧力に全く対応できなかった守備陣である。はっきり言えば、ター、ギンター、クロースターマンの3人は、出来が悪かった云々よりは単にこのレベルで戦える実力が不足している印象を受けた。彼らは確かに屈強かつスピードもある優れたアスリートだ。

しかし、ポジショニングの安定感、プレス回避能力、後方からのビルドアップ能力はフンメルス、ボアテングより大幅に劣る。ましてやラームなどとは比較にならない。直近の試合での失点の多さを見ても、ドイツの守備力は大幅に劣化している。特にGKへのバックパスなど圧倒的に増えた。

CBには今回怪我で欠場したリューディガーがいるが、もしも本戦までにこの絶望的な守備が改善出来ないようであれば、直前ですでに構想外が明らかにされたフンメルスの復帰という事態も考慮せざるを得ない。

もちろん、これはレーヴはギリギリまで拒むだろうが、EURO本戦となれば背に腹は変えられないだろう。その意味でもフンメルスがブンデスリーガ、チャンピオンズリーグでどのようなパフォーマンスを見せるか、注目される。

また、今回の試合に関して言えば、同点に追いつかれた段階でロイス、ヴェルナー2人をギュンドアン、ハーヴァーツに交代したレーヴの采配も疑問が残る。中盤でボールが落ち着かない状態になっていたので、キープ力が高くパス能力に優れた選手を投入する意図はわかるが、この2人を同時に投入するのはやや技術に溺れ過ぎだ。交代要因のうちの1人はオランダの勢いを止められる、ハードワークを厭わないファイタータイプの選手が現実的な解決だっただろう。

最後に、オランダについて言及しておきたい。ドイツはネーションズリーグからオランダとは縁があり、昨年から頻繁に試合をしているが、間違いなくオランダは見るたびに強くなっている。もともとポテンシャルの高い選手を揃えていると言われていたが、昨年はまだ荒削りな印象を受けた。しかし、今回の試合ではアグレッシブなプレー、1対1の強さのみならず鮮やかなコンビプレーを駆使しドイツを内容で凌駕した。

今や議論の余地なく世界最高の選手となったファン・ダイクに加え、デリフト、デヨンク、デパイなどの役者も揃っている。EURO2020でオランダは間違いなく優勝候補として乗り込んでくるだろう。ドイツは明日月曜日に現在グループ首位の北アイルランドと対戦する。予選突破に向けて、重要な試合となる。