EURO予選 : ドイツ、オランダに勝利し復活に向けて重要な一歩を踏み出す

日曜日は注目のEURO予選、ドイツ対オランダ戦がアムステルダムで行われた。本来ドイツがいきなり予選でオランダのような強豪と対戦する事はあり得ないのだが、これも昨年の戦績が悪かったからに他ならない。ドイツは抽選で強豪国が入るポット1から漏れたからだ。そして、まさに現在新チームでスタートしたばかりのドイツにとってアウェイで戦うオランダは明らかに格上の相手になる。

もっとも、この予選自体は2位以内に入れば本大会への出場権を獲得できる為、仮にオランダに勝てずとも他の格下のチームに順当に勝てば問題はない。故にアウェイであっても過度に戦略的にならず、勝利するべく真っ向勝負する事が期待された。強豪相手に何が出来て何が足りないのか、若いドイツにとっては現在の力を測る絶好の試金石となる試合である。

注目のシステムおよびメンバーであるが、レーヴはまずシステムを再び昨年機能した3バックに戻し、更にここ数年見ることの無かった2トップを採用した。GKはノイアー、3バックは右からギンター、ズューレ、リューディガーの屈強なストッパータイプの3人。MFは右からケーラー、キミッヒ、クロース、シュルツ、その前方中央トップ下にはゴレツカを起用した。FWはニャブリとサネの2人だ。

やはり強敵オランダが相手という事で、まずは堅い守備から縦に速い攻めを意図しているのは明確だ。因みに、この試合スタメンが確実視されていたロイスだが、大腿部を痛めているとの事でベンチスタートとなった。

さて試合であるが、アウェイのドイツがいきなり鋭い出足でオランダのゴールを脅かし、早くも15分に先制する。左サイドをスプリントで抜け出したシュルツはクロースの縦パスを受けると、スピードに乗ったまま中央にグラウンダーのクロスを送り、これを受けたサネが冷静にゴール右隅に左足で決めた。オランダはサネに対応したデ・リフトが滑ってしまうという不運もあり、これを防ぐ事が出来なかった。

この後オランダは単発ながら2度のビッグチャンスを得るが、ノイアーの好セーブに阻まれ得点できない。そして更に33分、ドイツは追加点を奪う事に成功する。左サイドでロングパスを受けたニャブリ、そこに立ちはだかるのは現在世界最強のDFファン・ダイクである。

ここで果敢に1対1を挑んだニャブリは中央に切り込み、ファン・ダイクを振り切ってゴール右隅に見事なミドルシュートを決めた。この得点はさすがにオランダを意気消沈させたのか、ドイツが更に攻勢に出る。これは予想だにしなかった展開だ。

ドイツは縦にだけでなく横にも大きく広く、長短のパスを織り交ぜながらオランダを翻弄する。以前の4-2-3-1ポゼッションサッカーでは狭い位置を技巧を凝らしすぎて袋小路にハマっていたが、新たなシステムではこの点が大きく改善された。

ドイツは40分あたりに立て続けに試合を決める2度の決定的チャンスを得るが、これはシュートの精度が悪くゴールならず。しかし、試合は完全なドイツペースだ。オランダ監督クーマンの表情が全てを物語っているだろう。前半はドイツの2点リードで終了した。

しかし後半、ホームのオランダは勿論このままでは終われない。クーマンは前半の4人の守備ラインを解体し、3バックで中央を固め、中盤両サイドにウィングバックを据えるシステムに変更した。これが功を奏して、後半は完全なオランダペースになる。まずは49分にコーナーキックからデ・リフトが頭で決めて1点を返した。

オランダは中盤高い位置から激しいプレスをかけ、ボールを奪ってはドイツをサイドから徹底的に攻め立てる。前半とは見違えるような出足の速さだ。ドイツは完全に自陣深くに貼り付けにされ、ボールを奪っても中盤でキープできず波状攻撃を食らう。特にドイツの右サイドは完全に後手に回り、同点ゴールは時間の問題に見えてきた。

そして63分、再び右サイドを攻められたドイツはゴール正面、混戦でこぼれたボールをデパイに冷静に決められついに試合は振り出しに戻った。もはや勢いは完全にオランダにある。

ドイツは70分にゴレツカに代えてギュンドアンを投入すると若干ながら落ち着きを取り戻し、80分にクロースがフリーキックから後半最初のシュートを放つ。一方のオランダは後半だけで既に8本のシュートを放った。いかに後半が一方的なオランダペースかわかる。

しかし、これほど劣勢の中でもドイツは守りに入らずあくまでも勝ちに行った。レーヴは88分遂にロイスを投入する。そして、そのロイスが決定的な仕事をした。

90分、中盤左サイド高い位置でボールを持ったギュンドアンは裏に飛び出したロイスにスルーパスを送る。これを受けたロイスは中央ペナルティスポットへ待つシュルツへ完璧なラストパスを出し、シュルツはこれをダイレクトで右隅へ決めた。

オランダはこちらもゴール前に走り込んだサネへのパスを読んでおりファン・ダイクとブリンドは2人でこれを潰しにかかったが、左サイドから中央へ走り込んだシュルツを完全に視界から失った。そして、絶妙な飛び出しからそのシュルツを見逃さなかったロイスの視野の広さ、ラストパスの精度は見事という他ない。更にその前の段階で見事なターンでボールをキープし、オランダ守備陣を翻弄したギュンドアンの技術の高さも光った。

そしてこの点が決勝点となり、ドイツはオランダ相手に当初は予想していなかったアウェイでの勝ち点3を得ることに成功した。予想を超えた山あり谷ありのスリリングな試合で、非常に見所の多い強豪国同士の真剣勝負だったと言えるだろう。

もっとも、試合内容を総じて言えばドイツが勝ったのは幸運だった。最後の5分足らずで登場し、いきなりそれまでの試合展開をひっくり返す決定的な仕事をしたマルコ・ロイスはまさにゴールデンジョーカーだ。殆ど漫画の世界のヒーローである。ロイスがどれほど重要な選手か、またもや思い知らされた。

しかし、この試合のドイツのMOMを私が挙げるとすれば、やはり最後に得点を決めた左サイドバック、ニコ・シュルツだろう。昨年までこのシュルツの名前を知っていたファンはどれ程いただろうか。殆ど無名に近い存在だったが、昨年のW杯後レーヴに抜擢されて以降、着実にその評価を高めつつある。もしかしたら、ここ最近では最大の発見かもしれない。

この日は1得点1アシストを記録しただけでなく、守備も大きなミスすることなく堅実にこなした。まだプレーの特徴を完全に把握していないが、久しぶりにスピードに優れた本物のサイドバックが登場したという印象だ。シュルツは間違いなく今後左サイドバック、ウィングバックのファーストチョイスになるだろう。この試合で大きく株を上げた事は間違いない。

チーム全体に目を向ければ、やはり若いメンバーだけあって、一度劣勢になるとガタガタと崩れる脆さがあるという印象は否めない部分もあった。クラブでの試合を含め、今後経験を積んでいく事で徐々に試合内容が高いレベルで安定していく事を期待したい。

しかし一方で、新チームが持つ高いポテンシャルを示した試合でもあった。幸運ながらもオランダという強豪に勝利した事は、若い選手たちにこれ以上ない自信になるだろう。復活に向けて非常に重要な一歩を踏み出した勝利として、高く評価したい。