2018年のトラウマを払拭出来なかったドイツ、EURO16強で敗退する

ドイツ対イングランドと言えば、W杯とEUROでしばしば名勝負を演じてきたライバル同士でもある。両国の試合は常にフェアであり、そして、ここ30年に関して言えば、常にドイツが勝利してきた。「サッカーは11人でするスポーツだが、最後に勝つのはドイツ人」と言う名言を残したのは、イングランドの名ストライカー、リネカーである。

しかし、ドイツは今日のEURO16強、遂にイングランドに屈した。イングランドにとっては長年の呪縛から解き放された歴史的勝利と言えるだろう。

試合は序盤から非常に緊迫した神経戦となった。最初にペースを掴んだのはドイツ、得意の速いパス回しから中央を突破し、FWハーヴァーツ、ヴェルナーがイングランド陣内深い位置まで侵入する。

イングランドは15分前後から盛り返し、16分スターリングのミドルシュートを皮切りに攻勢をかけてくる。その攻めに華麗さはないが、愚直なサイド攻撃とセットプレーからドイツのゴールに迫る。しかし、今日のドイツの守備陣は集中を切らす事なく、決定的チャンスは許さない。

30分を過ぎると再びドイツが盛り返し、32分ハーヴァーツのスルーパスからヴェルナーが良い位置からシュートを放つが、これはGKに防がれた。ドイツは前半終了間際にミュラーが自陣で壊滅的なパスミスを犯し大ピンチを迎えるが、これはギンター、フンメルスが見事なタックルで防ぎ事なきを得た。前半は非常に緊迫した、全く互角の展開で終了する。

後半まずペースを掴んだのはドイツだ。徐々に運動量の落ちたイングランドの守備陣を崩せそうな雰囲気が出てくるが、なかなか思い切った攻めを繰り出す事が出来ずに刻々と時間が過ぎて行く。そして迎えた75分、ドイツはケインのポストプレーから右サイドを攻略され、中央への速いクロスをスターリングに押し込まれて痛恨の失点を喫する。

81分、ドイツはスターリングのパスミスをさらったハーヴァーツが中央を走るミュラーにスルーパスを送り、GKと1対1の決定的チャンスを得るが、ミュラーはこの千載一遇で得たチャンスのシュートを左に外してしまう。これでドイツは集中が切れ、そして86分にケインに2点目を決められ万事休した。

敗れはしたが、今日のドイツの戦いぶりは決して悪くはなかった。寧ろ、前半15分から30分までのイングランドの攻勢を持ち堪えた守備は賞賛されて然るべきだろう。特にケインをほぼ完全に消した前半のフンメルスは見事な出来だった。また、攻撃に関しても速いパス回しから幾つかのチャンスを創出し、何処かでゴールが決まってもおかしくはなかった。その中でドイツが先に失点を喫してしまった事は寧ろ不運だったと言える。

しかし、これは敗れた初戦フランス戦も同様だったが、後半相手が疲弊した段階でもう一押しが足りなかった。縦へ速い攻め、ゴール前で脅威を与える事が出来なかった。或いは、サイドから早めのクロスを入れる事が出来なかった。言ってしまえば、ここが今回のドイツの限界だった。

何故なら、大きくて強いFWが居ないと同時に、余りにもカウンターに対する後ろの守備が不安だから、中盤を支配した有利な展開でもゴール前に人数をかけた、思い切った攻めを繰り出す事が出来なかったと言う事だろう。

結局のところ今回のEUROの全試合を通じて言える事は、ドイツはやはり2018年W杯グループリーグ敗退のトラウマを払拭する事が出来なかった。今回のEURO、ドイツのサッカーは2018年のポゼッションドグマに3バックでカウンターに対する保険を加えて若干安定感が増したというもので、それ以外に大きく進歩した点は見られなかった。

攻撃陣が爆発して勝利したポルトガル戦を含め、中盤を支配しながら相手に少ないチャンスをものにされると言う展開は、惨敗した3年前と同様である。寧ろハンガリー戦を奇跡的に引き分けてグループリーグを突破したのはラッキー以外の何者でもない。もはやドイツと言う名前だけで優勝候補となる時代は完全に終わった。来年のW杯はまず予選突破、グループリーグ突破が目標になるレベルだ。

それを踏まえて言えば、寧ろ今回健闘しながらイングランドに敗れたのは、順当とも言えるだろう。少なくとも昨日終盤に2点差を追い付かれ、スイスにPKで敗れたフランスに比べれば、今日のドイツの負けっぷりは余程合点が行く。

個人的に今大会唯一誤算だったのが、ドイツの攻撃の核になるべきだったセルジ・ニャブリが絶不調だった事だ。今日はスタメンを外され、途中出場だったが完全な泣かず飛ばずの挙句、決定的なボールロストで2点目の原因となった。私はニャブリを非常に高く評価していただけに非常に惜しまれる。

そして、この試合は16年年間代表監督を務めたヨアヒム・レーヴの最後の試合となった。レーヴがドイツサッカーに残した功績は非常に大きい一方、かつてのドイツの強みであった精神力や肉体的強さは完全に失われた。このレーヴ政権の総括は時間がある時に行う事にしたい。