昨日はEURO2021グループリーグ最終戦、ハンガリーとの試合がミュンヘンで行われた。ドイツは勝利か引き分けならばグループリーグの突破が決まる。ハンガリーは同グループで既に対戦したフランス、ポルトガルに比べれば明らかに力は劣る事に加え、ドイツは前戦のポルトガル戦を手応えのある内容で勝利しており、世間には明らかに楽観的なムードが漂っていた。しかし、蓋を開けてみれば誰も全く予想だにしない展開となった。
試合開始早々から圧倒的にボールを支配するドイツだが全くチャンスを作れない。ハンガリーの作戦は明らかだ。ドイツの攻撃の起点となるクロース、キミッヒ、ギュンドアン、フンメルスを徹底的にマークし、逆にビルドアップが苦手なギンターにボールを持たせる。そして苦し紛れに上げたクロスの溢れ球を拾いカウンターに転じると言うものだ。ドイツにはゴール前で脅威を与えられる本職のFWがいない事を見越した作戦である。
そして早くも11分、そのギンターのクロスが例によってクリアされると、ハンガリーはカウンターから先制点を決める。ドイツは後方で数的優位ながらクロースは中盤で寄せに来ず、フンメルスは相手FWに易々と裏を取られるという最悪な守備だ。惨敗したロシアW杯を彷彿とさせる。
その後もドイツはコーナーキックからフンメルスのヘディングがバーに当たるチャンスがあったが、流れの中からは全くチャンスが作れない。相手を走らせて疲弊させれば後半にチャンスも出るのだろうが、攻撃が右サイドに偏っており、全く相手を振り回せない。左サイドでフリーのゴーセンスは完全な蚊帳の外、ギュンドアンなどは完全な行方不明だ。1点ビハインド、絶望感満載の展開で前半を終えた。
何とか攻撃の糸口を掴みたいドイツは後半メンバーはそのままにシステムを4バックに変更、キミッヒを中央に据え、ギュンドアンを高い位置に上げる。更に60分にゴレツカを投入すると若干だが相手陣内深い位置にボールが入るようになる。66分、ドイツは右サイドのフリーキックを獲得、これを相手GKがパンチングを空振りし、こぼれ球をハーヴァーツが決めて棚からぼた餅の同点とする。
だが、これでホッと一安心と思いきや、直後のキックオフでドイツは一発のロングボールから大混乱に陥り、再び勝ち越しゴールを許すという信じがたい展開となる。余りにも酷すぎて空いた口が塞がらない。ドイツはこの後DFフンメルスを前線に上げ、更には次々と攻撃の選手を投入し、一か八かの完全なハラキリ戦術に出た。もはや戦術も糞もない。
しかし、もはやこれまでかと思われた84分、ドイツは交代出場の18歳ムジアラが左サイド深い位置で相手を交わし、中央へ冷静なパスを送ると、こぼれ球をゴレツカがゴール正面から決めて同点に追いついた。さすがにこの後ハンガリーに反撃の力は残っておらず、ドイツはボールを回しながら何とか同点で逃げ切った。同時進行で行われたフランスvsポルトガルが予想通りの引き分けで、ドイツは2位でグループリーグ死の組を突破する事に成功した。
この試合の率直な感想を言うならば、ドイツは余りにも酷すぎた。はっきり言えば引き分けに持ち込めたのはラッキーであり、ロシアW杯に続くグループリーグ敗退だったとしても誰も文句は言えないだろう。グダグダのボール回しからカウンターで失点するそのパターンはまさに3年前の悪夢を彷彿とさせる試合だった。
確かにハンガリーの統率された守備、ドイツの隙を突いて得点した集中力は賞賛されて然るべきではあろう。事実フランスとも引き分けており、決して弱いチームではない事は確かだ。しかし、そのメンバーを比較すればドイツが圧倒的な格上だ。グループリーグの突破のかかる大事な試合、かつ引き分けでもOKという条件の中見せる試合ではない。
そしてその酷い試合の原因が何かといえば、まず挙げておきたいのが最近お馴染みになっているヨアヒム・レーヴの迷采配だ。この日はミュラーが負傷のためスタメン落ちが確実な故、代わりはゴレツカだと誰もが思っていた。当然だろう、ゴレツカはドイツに足りないゴール前への突進、ヘディングの強さに加え、中盤での守備力もある。ドイツのチームとしての弱点を完全ではなくとも、かなり高いレベルで補完しうる存在である。
しかし、レーヴが送り出したのは全く正反対のタイプのサネだった。サネはスペースがあればその圧倒的なスピードでこれ以上ない脅威になるが、引いてカウンターを狙ってくる相手には相性が悪い。更に問題なのが、その守備力が著しく低い点である。勝つよりも負けてはならない大事な試合でスタメンで使う選手ではない。昨日のサネの出来は酷かったが、サネを非難する以前に、まず悪いのは適材を適所、適時に使えない監督だ。
結局ドイツを救ったのは、途中出場のゴレツカだった。これは結果論でも何でもなく、多くの人が最初から予想できた事だ。
もちろん監督だけではなく、選手も最悪だった。絶対に与えてはならない先制点を与えた酷い守備もそうだが、その上更に、棚からぼた餅で得た同点ゴールの直後のキックオフ、一発のロングボールで失点するなど、あり得ない。強豪国どころか、殆どアマチュアレベルの気の抜けようだ。これに怒り心頭だった国民は大多数だろう。守備がザルなのは計算に入っているが、昨日は予想を上回る酷さだった。
まあ、ネガティブな事ばかり上げても仕方がない。ベスト16の相手はフランスに次ぐ優勝候補と呼ばれるイングランドである。もっとも、伝統的にドイツはイングランドと相性が良い。おそらく、ベスト16で早くも天敵ドイツとの対戦となり地団駄を踏んでいるのはイングランドのファンだろう。間違いなく、ハンガリー戦とは全く異なる趣の試合となる。
そして、ドイツはこのイングランド戦を勝利すれば、決勝進出の望みがかなり出てくる。と言うのも、スペイン、イタリア、フランスなどのドイツが苦手とする強豪国は反対の山に入ったからだ。今回のドイツは強いのか弱いのかさっぱりわからないチームだが、ここまで運だけは比較的恵まれている事は確かだ。