家賃高騰の一因として問題視される、Airbnbの民泊仲介ビジネス

ここミュンヘンを初めとしたドイツ大都市部の賃貸住居価格が数年前から異常に高騰している事は既に何度か記事にした。このテーマはもはやドイツ社会における最大の懸念事項の一つとして、大きな政治的テーマになりつつある。当然だろう。電気代が2倍になろうが、アウトバーンが有料になろうが、ディーゼル車が締め出しを食らおうが、とりあえず生活はできる。

しかし、ここ7、8年で賃貸住居の価格がおよそ6割も上昇したなら、それは我々庶民にとって極めて深刻な問題となる。そして現在はまさにその状況であり、全く状況が改善する気配はない。その一因として、最近やり玉に挙がっているのが、インターネットで民泊仲介ビジネスを営むAirbnbである。

私自身はAirbnbのサービスを利用した事はないが、要はブッキングドットコムのような、ウェブサイト上で宿泊所を予約できるプラットホームである。ブッキングドットコムが主にホテル宿泊を仲介しているのに対し、Airbnbは民泊、つまり個人の住居を旅行者に貸す事を仲介しているサイトである。

まず旅行者側にとってこの民泊のメリットは何といっても宿泊価格が圧倒的に安くつく事であろう。確かにホテルは人員を雇ってしっかりとした宿泊設備とサービスを提供するが、必ずしも多くの人が高いお金を払ってこれらを必要としている訳ではない。貸主と問題なくコミュニケーションが取れるのであれば、民泊で十分だと言う人は多い筈だ。

更に貸主側も例えば自分たちがバカンスなどで住居を空けている期間、旅行者にそれを貸し出す事でちょっとしたお金を稼ぐ事が出来る。自宅の空いている部屋などを貸せばホームステイのような形にもなり、貸す側と旅行者の人間的な交流も発生する。

そして、Airbnbはその民泊を仲介する手数料でお金を設けている。今日ではインターネットにより世界がオンラインで繋がり、格安航空会社の発達で旅行が以前よりも遥かに容易になった。その中で民泊という貸主と旅行者側に経済的、人間的なメリットが発生する新たな宿泊形態を仲介するというAirbnbのビジネスモデルは賢く、現在の世の中のトレンドにもマッチしているように見える。

本来ならこのような新たなサービスの出現は歓迎すべきであり、Airbnbが世界規模で急速に成長してきた。多くの人がこのビジネスモデルは素晴らしいと絶賛するのも不思議ではない。

しかし一方で、このAirbnbのビジネスに大金を稼ごうと目論む個人の不動産所有者、更には不動産業者が目をつけた。つまり、自らが所有、或いは管理している賃貸物件を地元の人間の住居として貸し出すよりも、世界から来る旅行者にAirbnbを通して貸し出た方が遥かに儲かる事に気付いたからだ。

言うまでもなく、Airbnbで貸し出されている宿泊料金はホテルよりは安いが、我々地元の人間が住居として利用する賃貸料より遥かに高い金額で貸し出すことが出来る。とりわけ、ミュンヘンやベルリンのような旅行者に人気の大都市ではAirbnbの仲介する民泊は大人気だ。

そのような状況を放置しておけば、一体どうなるか火を見るよりも明らかだ。現地の人間が借りようとする賃貸物件の数は劇的に少なくなり、価格が上昇する。ミュンヘンはその経済的な強さから毎年多くの移住者がやってくるので、その傾向はドイツの他の大都市と比較しても顕著だと言えるだろう。そして、これはミュンヘンのみならずヨーロッパで大いに問題視されている。

現在Airbnbが問題になっているヨーロッパの都市の中で最もシンプルかつ断固とした処置をとったのがスペインのパルマ・デ・マヨルカだ。この地はドイツ人が好むバカンスの地として非常に有名であるが、昨年より個人所有の住居を旅行者に賃貸する事を禁止とした。

因みにこのパルマ・デ・マヨルカへ異常に増加する旅行者は以前から問題になっており、とりわけ2016年は爆発的に増えたと言われる。このため、現地では“tourist, you are the terrorist”=「旅行者よ、君たちはテロリストだ」、或いは“tourist go home, refugees welcome”=「旅行者よ家に帰れ、難民はようこそ」などと言うヤケクソな壁への落書きが注目された。

南ドイツ新聞によると、パルマ・デ・マヨルカで住居を旅行者に貸し出しせば、現地の人間に長期間貸し出すよりも5倍もの収入があったとされる。旅行者用に住居を貸し出す為にはライセンスが必要だが、大半はライセンスなしで貸し出されており、市の役所も完全に状況をコントロール出来なくなっていたの事だ。

更に最近になって話題になったのがフランスのパリである。パリでも住居を旅行者に貸し出す際には当然市の許可が必要だ。しかし、パリはAirbnbが許可を得ていない1000件の住居をウェブサイト上でオファーしている事を突き止め、一軒に対し12500ユーロ、つまり総額1250万ユーロの罰金をAirbnbに要求した。これは金額が記録的なのみならず、市長自らの怒りの言葉を持って要求されたもので、この状況が如何に深刻か物語っている。

これに対しAirbnbはパリの規則の件は既に貸主側に説明済みであるとし、更にこのパリの規則は効果的でない上に現状を無視した極端なもので、ヨーロッパの規則にも反するとして抗弁した。Airbnbはあくまで仲介している業者なので、説明したにも関わらず貸主が市に届けずに年中旅行者に住居を貸しているのは自分たちの責任ではないと言いたいのだろう。

しかし、結果としてそのような違法な住居貸し出しで大金を稼ぐならず者を支援し、更にはその手数料でビジネスを営むAirbnbはパリの市長が言うように「共犯者」でもある。そして、このAirbnbを取り締まらない事には、違法な貸主を摘発する事は難しい。

そして、ここミュンヘンにおいても当然、Airbnbに対する厳しい処置が打ち出されている。ミュンヘンでは住居を旅行者に民泊として自由に提供できるのは年間最大8週間という規則があるが、Airbnbはこの規則を破った貸主の名前とアドレスを公表せねばならないとの判決が昨年末に下された。これを渋った場合、30万ユーロの罰金が科されるとされる。

Airbnbはこれに対し、自らのヨーロッパの本拠はアイルランドにある事を理由に、このミュンヘンの判決は適用されず、更に貸し主の個人情報保護の観点からもドイツの基本法に反するとして抗弁した。逆に言えば、多かれ少なかれ規則を破っている貸主が存在する可能性があると言う事だろう。

もちろん、このAirbnbのビジネスモデルが一概に問題があるとは言い切れない。そもそも、都市部の家賃高騰にAirbnbのビジネスがどの程度関係しているか具体的に把握する事は難しい。また、ミュンヘンなどとは反対に人口が減って住居が余っている地域などは、Airbnbを介した旅行者への民泊は歓迎されるサービスにもなるだろう。一般的にマヨルカのような特殊な場合を除いて、観光客が増える事自体は喜ばしい事で、経済の活性化にも繋がる。こう言ったビジネスで誰かが金を稼ぐ事は結構な事だ。

しかし、それは勿論ルールを守った話である事は言うまでもない。多くの貸主が市に届け出を出さずに違法に旅行者に住居を賃貸し、更には税金まで逃れているようなビジネスが横行しているのであれば、それは大いに問題がある。Airbnbがそれらを助長しているのであれば、如何にアイデアが素晴らしくとも、諸手を挙げて絶賛するようなビジネスモデルとは言い難いだろう。