ローター・マテウス、新たなドイツ代表監督候補に取り沙汰される

ヨアヒム・レーヴがEURO終了後の退任を表明して以降、誰がその後任に据えられるか既に憶測が広まっている。国民の人気No.1であるユルゲン・クロップはリバプールとの契約を理由にこれをはっきりと否定した。おそらく次に人気があるのが、FCバイエルン監督であるハンジ・フリックであろう。こちらは完全に否定しておらずクロップよりも確率は高いと思われるが、やはりFCバイエルンとの契約がある。

最も可能性が高そうなのは、現在フリーかつ監督としての実績も高いラルフ・ラングニックだと思われる。しかし、最近これに割って入るべく名前が取り沙汰されているのが、ドイツサッカー史でも3本の指に入るであろうレジェンド、ローター・マテウスである。

このマテウスの選手としての実績は疑いの余地がなく、知名度から言えば全く文句の付け所のない人選となる。問題はマテウスの監督としての能力が如何ほどのものかという点であるが、残念ながらその実績は芳しくない。

マテウスは40歳で選手としてのキャリアを退くと直ぐに監督としてのキャリアをスタートとさせ、これまで国外で7チームを率いた経験があるが、いずれのチームでもおよそ1シーズン程度で解任された。確かにそのうちのパルチザン・ベオグラードで一度優勝し、2004年にはハンガリー代表の監督として母国ドイツをテストマッチで破っており、全く成功がなかった訳ではない。

しかし、マテウスは現役時代からいろいろと言動、素行に問題がある人間として認知されており、あれ程の実績がありながら国内のチームは一度も率いた事がない。圧倒的な知名度で就任した国外での監督業も殆どが円満に終えてはおらず、マテウスの最後の監督としてのポストは2010-2011年にブルガリア代表監督まで遡る。因みにマテウスは4度の離婚を経験しており、私生活でもかなり波瀾万丈である。

そういう訳で、普通なら誰も今更マテウスがドイツ代表監督になるなど考えもしない。ドイツには現在、上記に挙げたクロップ、フリック、ラングニックの他にも、トゥヘル、ナーゲルスマンなどの優秀な監督が存在し、更にU21監督のクンツや、ヨアヒム・レーヴのアシスタントであるゾルクも手っ取り早い解決ではある。

そんな中、マテウスの元チームメイトで、つい最近までARDの解説者を務めていたメーメット・ショルは敢えてマテウスをドイツ代表監督に強く推した事で話題を呼んだ。そして、当初は完全な冗談だと思われたこの話だったが、バスラー、エッフェンベルク、ヘスラー、コーラー、トーンなどの元代表チームメイトがこれに賛同、更にはベッケンバウアー、ヒッツフェルト、ハインケスという名将まで監督マテウスにポジティブな意見を述べており、単なるゴシップから真剣なドイツ代表監督候補になりつつある。

しかし、何故このマテウスが並み居るレジェンド達からここに来て推されているかと言えば、びとつはマテウスの解説者としての能力が非常に高く評価されているからだ。マテウスは2012年からはペイTVのSkyで解説を務めており、短命に終わった監督業とは裏腹に今日までこの仕事を続けている。

確かに、マテウスのコメントは「さすが」と思わせるものが多いのは事実で、最初にマテウスを推したショルに至っては「彼はいつも正しい」とまで言わしめている。ショル自身も解説業をしていたので、その仕事の難しさを身を持って知っているからだろう。

また忘れてはならないのは、やはりマテウスの現役時代の実力と実績、ドイツサッカーに対する貢献に対し、並み居るレジェンド達も大いなる敬意を払っている事だ。特に誰にでも噛み付ける強面なキャラクターで有名なエッフェンベルクでさえマテウスの功績は極めて大きいと認識している。事実この点においてマテウスは別格と言って良い。

更に、もともと問題のあるとされていたマテウスの性格、人間性についてだが、年齢を経るにつれてこの点も成熟してきたとの評価もある。でなければ、解説者の仕事も10年近くも続けられないだろう。もともと、チームのキャプテンを務めてW杯を優勝しているのだから、マネージャーとしての素養は持っている事は間違いない。

そして肝心の本人のやる気であるが、マテウスは現在の解説者の仕事に満足している模様ながら、多くの人々が望むならば話をする用意はあるとしている。現時点では大穴の域を出ないとしても、事態の転びようによっては監督マテウスの線は捨てきれない。個人的には面白い選択肢だと思っている。