ドイツで推奨されているFSME(ダニ媒介性脳炎)の予防接種

現在、予防接種といえば言うまでもなく新型コロナを思い浮かべるだろうが、実はドイツに住むにあたり受けて置いた方が良い予防接種の一つにFSME(ダニ媒介性脳炎)がある。FSMEとはマダニが媒介する感染症であり、場合によってはかなり重篤な症状となり、治療薬なども今のところ存在しない。故に先日この予防接種を受けてきた。

特に私の住むバイエルンの大部分はロベルト・コッホ研究所よりこのFSMEの危険地域に指定されており、この地域の居住者にはワクチンの接種が推奨されている。バイエルンの他にもバーデン・ヴュルテンベルク、テューリンゲンの南部も同様に危険地域であり、ざっと見渡せば、ドイツの南部は概ね該当する。FSME-Risikogebietなどで検索すれば危険地域の地図はすぐに見つかる。

混同してはならないのは、この危険地域は決してマダニの生息地域を反映したものではなく、あくまでもFSMEの発症率が高い地域を指定しているもので、マダニ自体は何処にでも存在する。基本的にマダニは草むらや森などの緑の多い場所を好んで生息しており、芝生の敷き詰めてある公園やスポーツ広場などにも出没する。

危険地域に限って言えば、マダニのうちのおよそ2%がFSMEに感染していると見積もられており、噛まれた人のうちおよそ3分の1が感染するとされている。これを高いと思うか、低いと思うかは人それぞれだろうが、一つ言えることは、このFSMEの事例は年々上下しながらも増加しており、特に昨年は2001年の統計開始以来最も多かった。

というのも、マダニの活動期間が地球温暖化の影響で通年化しつつあることに加え、昨年に限って言えば新型コロナのロックダウンの影響で、夏場に外にでて活動をする人が増えたからだ。故に新たに12の自治体の地域が新たに危険地域に追加されている。

もしもこのFSMEに感染し発症した場合、熱や怠さ、関節痛などのインフルエンザのような症状が出るとされる。ここから更に重症化すると脳炎や神経炎が発症し、最悪の場合死に至る事例もある。更に治癒した場合でも、麻痺や呼吸器系などの後遺症が残るとされている。先に述べたように治療薬は存在せず、仮に感染してしまった場合、最終的には自己免疫力だけが頼りとなる。

しかし、幸いな事にこのFSMEに関しては既にワクチンが存在しており、先日に接種を受けてきた。ロベルト・コッホ研究所によると、接種を完了した者の99%はFSMEから完全な防御機能が獲得されるとされる。

接種は基本的に一般的な小児科医やクリニックで簡単に受ける事が可能で、私の知る限り危険地域に住んでいれば殆どの健康保険が全額負担してくれる。接種は合計3回必要で、最初の接種からおよそ1ヶ月後に2度目、1年後に3度目の接種で完了、有効期間は3年である。私の場合、最寄りのクリニックに電話したら”Impfpass”を持って予約なしで来ればよいとの事で、その通りにした。Impfpassとは接種を記録する、日本で言うイエローカードのことである。

私はこれがドイツで初めての予防接種だったので、イエローカードはアマゾンで注文して持って言った。ただ、別に初めてならクリニックで無料で作ってくれるのではないかと思う。また、今後はイエローカードもデジタル化する事が予想されるので、わざわざ買う必要は無かったかもしれない。

また、マダニに噛まれた場合、出来るだけ早く、正しく取り除くことが重要である。マダニは皮膚に頭を突っ込んで吸血するので、間違った取り方をすると頭が残る事があり、故に専用のピンセットがある。噛まれること自体は良くある話とはいえ、早く取り除くことが出来ればそれだけ媒介される感染症のリスクも低下する。

尚、マダニはボレリア菌を媒介する事でも知られており、こちらも重篤化する可能性がある厄介な疾患になる。ボレリア菌に対しては予防接種は存在せず、抗生物質で治療する事になる。

今月から新型コロナの規制も段階的に緩和されることが決定しており、これから暖かくなるにつれて外出の機会も増える。今年は暖冬の影響でマダニの活動も活発であり、昨年よりも更にFSMEの事例が増えると予測されている。ざっと見る限り、潜伏期間、症状、死亡率、後遺症が残る点などは新型コロナと大差ない。コロナばかりに気を取られて、FSMEのような従来からある感染症の対策が疎かにならないよう、意識しておくべきだろう。