日本では国の借金が既に1000兆円を超えているのは既に多くの人が知るところで、日本の将来を左右する極めて重要なテーマだろう。もっとも、この数字に関しては様々な解釈があるようで、私も自らの見解を述べるほどの知識を持ち合わせていないのだが、国の財政に関してはドイツでも同様に大きな議論が存在するので紹介したい。今週の水曜日に財務省であるオラフ・ショルツは2020年の予算編成と、2023年までの大まかな財政プランを決定し、これがまた物議を醸している。
と言うのも、ドイツは年々借金を増加させる日本とは異なり、2014年あたりから税収が僅かに支出を上回る状態が続いている。この状態はドイツ語で俗に”Schwarze Null”=「黒いゼロ」と呼ばれており、ショルツは2020年もこの黒字の状態を保つ予算編成を決定した。ドイツの国の借金は対GDP比で現在およそ64%であり、これは先進国の中ではかなり低い。
もちろん、これまでは景気が異常に良かったために、この”Schwarze Null”はどちらかと言えば良い話として受け止められる事が多かったのだが、最近のニュースによるとドイツの景気も頭打ちになっており、もしかすると景気後退局面に入る可能性も指摘されている。昨年の終わりの時点では今年の経済成長率は1,5%と予測されていたが、直近の発表では0,8%も下方修正された。もはや儲かってウハウハの状態は完全に終わった。
にもかかわらず、ショルツはやはり是が非でも黒字の国家予算を達成すべく、悪く言えばケチった予算編成で非難を浴びている。もちろん、何にどれだけ金を使うか話を始めたらそれこそきりがないので、それがケチなのかは別にしても、現在の豊かな税収は将来の為にもっと投資すべきだと言う意見は以前からあり、その声は益々大きくなりつつある。
実際に私も以前あまりにも景気が良いわりにはさっぱりに国民に還元されている実感がなく、政府はケチすぎるという記事を書いたことがある。その後多少は子供手当が上がり、給料の手取り割合が若干増えるなどの恩恵はあったが、結局のところすべての物、サービスの価格が上がっているので、全然負担が減っているという実感はない。
減税をするなどという話もあったが、減税をすると更に景気が過熱しすぎるからダメで、最近は逆に今後景気が悪くなりそうで、これまで程の税収が期待出来ないからやっぱりダメだという話になっている。結局どっちみち減税は無いという事だ。まあ元々大して期待はしていない。
そして、肝心の専門家の意見であるが、やはり多くがこのまま黒字の国家財政を当面は継続して行くことが望ましいとしている。何故なら2030年以降は人口動態の変化により国家財政は間違いなく赤字経営せざるを得ないからだ。日本ほどでは無いだろうが、人口が減少し高齢者が増えればそうなるのは当然であり、やっぱり今のうちに蓄えとけと言う話なのだろう。
ただ専門家が言う事にケチをつける気はないが、減税はともかく必要な事にはしっかりと投資しておかなければ、そもそも経済力も落ちて税収も減る。財政が黒字なのは結構な事だが、無理に拘るものでもない。どうせいずれは赤字になる。そんな数字遊びよりも、何に金を投資すべきかより真剣に考えるべきだと言う意見は多い。
もっとも、そのように自国財政の貯金好き体質に文句を言うドイツ人であるが、個人レベルで見てもやはり皆貯金が大好きだと言うのは変わらない。
知っての通り、ユーロ圏は日本同様数年前から続く低金利政策で貯金をしても殆ど利子が付かない状態が続いている。結局、そんな笑うような利子よりも物価の方が余計に上がるので、貯金をすれば資産は相対的に目減りするのはわかりきっている。そういう訳で多くのユーロ圏の国々では貯金の割合が下がっているのは当然の話だ。
しかしそんな中、ユーロ圏で突出して貯金率が高いのがドイツである。そしてそのドイツ人の中でもシュヴァーベン地方、現在のおよそバイエルン西部地方の人はとりわけ倹約、節約を好むと言うのは有名な話だ。貯金はまさに堅実なドイツの国民性と伝統を表しており、美徳でもある。
そして、私自身も経験から言ってもドイツ人はとにかく将来に対する不確定要素を排除したがり、将来が予測できない、計算できない状況を嫌う傾向がある。これはしばしば俗に”German Angst”=「ドイツ人の不安」として、ステレオタイプなドイツ人像としても世界的に認知されているのだが、あながち的外れではない。とりわけ昨今は予測不可能な出来事も多いので、将来を不安に感じる人も多いのもあるだろう。