昨年は旧東ドイツ三州で選挙が行われAfDが予想通り躍進し、CDU/CSU連合とSPDの連立政権は相変わらずガタガタながら何とか持ちこたえた。今年2020年は国民が直接関与する大きな政治イベントは比較的少ない年となる。しかし、注目されるのは、既に今期を最後に首相の地位から退く事を表明しているメルケルの後釜が誰になるのか、おおよそ候補が決定される点と言えるだろう。
具体的には、連邦議会選挙の行われる2021年の前年である今年に、現在の最大勢力であるCDU/CSU連合は”Spitzenkandidat”と呼ばれる次期首相候補を擁立し連邦議会選挙に臨む。彼らが順当に第一勢力として政権入りすれば、ここで擁立された次期首相候補がメルケルの後を継ぐ次期首相になる可能性が極めて高い。知っての通りメルケルは今期で政界からの引退の意向を示した。
そして、このメルケルの後釜となる首相候補は、順当に行けば現在の党首であるアンネグレート・クランプカレンバウアーの筈だった。しかし、このポストの予想はここに来て全く読めない混沌とした状況になっている。というのも、堅実と言われたクランプカレンバウアーであるが、党首に就任して以降その評判は著しくない。寧ろ度重なる失言で首相不適格の烙印を押されていると言った方が正しい。
代わって人気が出てきているのが、一昨年のCDU党首選で僅差でクランプカレンバウアーに敗れたフリードリヒ・メルツである。かつてのメルケルのライバルであり、保守派のカリスマといって良いそのプロフィールは、現在のところ党内および有権者の間でもメルケルの後釜として圧倒的な人気を集めている。この人気はあくまでもクランプカレンバウアーが滑って落ちて来た漁夫の利も大きいだろうが、今後のメルツの発言が再び注目されるのは間違いない。
更に急遽候補として浮上して来ているのが、昨年新たにCSUの党首に就任し、バイエルン州の首相でもあるに就任したマルクス・ゼーダーである。もっとも、ゼーダーはまずはCSU党首としての実績作りが必要であり、いきなり首相候補に担ぎあげられて揚げ足を取られると都合が悪い。本人もドイツ首相候補として名乗り出る意思は無いと控え目な態度を示しており、現時点では大穴となる。
更に名前が取り沙汰されているのが、現在健康相であり、一昨年の党首選へも出馬したイェンス・シュパーン。更にかなり地味ながら侮れない候補者としてあげられているのが、現在ノルトライン・ヴェストファーレン州の首相であるアーミン・ラシェットである。
もっとも、ここまで名を挙げたのは全てCDUおよびCSUの政治家である。次回の総選挙でCDU/CSU連合が確実に勝利すると誰が言えようか。最大のライバルとなるのはここ数年で一気に支持率を上げて来た環境政党であるGrüne「緑の党」である。そして、次回の総選挙の結果次第では史上初のGrüneから首相が誕生する可能性も十分あり得る。
Grüneは現在ロベルト・ハベックとアンナレーナ・ベアボックのダブル党首体制で運営しており、ハベックはこのブログでも既に紹介した。順当に行けば今年中に両者のうちの何れかが首相候補として擁立されるだろう。
勿論、Grüneとしてはこのテーマで党内が分裂するような事は絶対に避けたいので、現段階ではほぼこのテーマはタブーとなっているが、経験、知名度から言ってロベルト・ハベックが首相候補として名乗りを上げる可能性が高いと見られている。
一方かつての国民政党であったSPDであるが、昨年も弱体化に歯止めをかける事が出来ていない。その支持率は完全にGrüneの後塵を拝する形になっている。党首であったアンドレア・ナーレスが辞任し、後任探しに難航するなど立て直しにはまだ時間がかかる模様である。また、AfDも旧東ドイツ地域で強い勢力を誇っているが、連邦議会で単独過半数の議席獲得および、他政党がAfDと連立政権を組む事はまず考えられないので、ドイツにおいて右派ポピュリストの首相誕生は無いだろう。
何れにしても、これらの大物政治家の発言は来年以降のドイツ首相のポストを意識したものになってくる。今年非常に注目される事は間違いないだろう。