フンメルスのドルトムント復帰で、ブンデスリーガは面白くなる

来季のブンデスリーガに向けて先週大型移籍が敢行された。FCバイエルンのマッツ・フンメルスが3年ぶりにドルトムント復帰する事が決定した。これはドイツで最も視聴されているARDニュース8時からの”Tagesschau”においてもスポーツ枠でなく、一般枠で見出しとなる程の注目度の高い移籍となる。契約は3年である。

1988年生まれのフンメルスは現在30歳、ドイツ代表70キャップを誇るドイツ屈指のCBだが、昨年以降衰えが指摘されている。現在ではドイツ代表も構想外となり、クラブでもその地位は安泰とは行かなくなってきた。

折しもFCバイエルンはCBにエルナンデスというフランス代表を補強し、更にアラバ、キミッヒ、マルチネス、新たに加入するパヴァールといった面々もフンメルスのポジションを務める事ができる。それを考えれば、30歳で衰えの見えるフンメルスが押し出されるのは容易に想像できた。

更にドルトムントは非常に若いチームであり、フンメルスのような修羅場を潜り抜けた経験豊富な選手を必要としているのは明らかだった。フンメルスのツィートを読む限り、実際にかなりスムーズに話が進んだ事を窺わせる。

もっとも、この移籍に関しては当然反対意見もある。とりわけ、ドルトムントはこれまでも数名の選手をビッグクラブに放出し、それらの選手を後に買い戻した。サヒン、香川、ゲッツェなどがそれに当たる。

そして、これらの選手はいずれもかつての輝きを取り戻せなかった。確かにこのうちゲッツェはまだドルトムントでプレーしているが、100年に1人の天才と言われた面影はない。フンメルスも同じ道を辿るのではないかという懸念がある。

更にドルトムントは3年前に全盛期のフンメルスを3500万ユーロでFCバイエルンに売却し、衰えの見える現在になって3800万ユーロで買い戻した。常識から言えばこの商売に納得する人間はまずいない。そして、このあたりの商売上手ぶりもFCバイエルンの強さの秘訣でもあるだろう。ライバルチームの優秀な選手を買い漁るだけでなく、それを数年後ポンコツにして高く売りつける。そうやってブンデスリーガはバイエルンの一強状態が形成されていく訳だ。

しかし、このフンメルスの獲得に関してはドルトムントもかなりのメリットはある事は間違いない。まず第一に先に挙げたフンメルスの実績と経験である。昨シーズンのドルトムントは極めて高いポテンシャルを見せた一方で、大一番での経験不足をこれ以上なく曝け出した。逆にFCバイエルンは弱体化しながらも勝負どころでキッチリと勝利を収め、最終的にはブンデスリーガとカップ戦に2冠を手にしている。フンメルス自身も後半の勝負どころで調子を上げてきた。

また、フンメルスは衰えが指摘されているとされるが、何が問題なのかははっきりしている。スピードだ。しかし元々フンメルスはそれ程速い選手ではなく、ポジショニングや読みでカバーしてきた選手だ。そしてこの点においてフンメルスは未だドイツトップクラスの実力を持っている。

昨年のチャンピオンズリーグのFCリバプール戦、フンメルスは見事なポジショニングでリバプール攻撃陣の最後と砦となり、スコアレスドローの立役者となった。ここ一番では未だ世界トップクラスの守備力を発揮できる事を証明している。

更にフンメルスの後方からのビルドアップ能力、パスの精度と視野の広さは唯一無二と言って良い特別な能力だ。これはドルトムントの攻撃のバリエーションを増やし、更には相手のゲーゲンプレスの回避に大いに貢献できる。

またフンメルスは4バックだけでなく、ドイツ代表で既に3バック中央でもプレーした経験がある。周りに屈強かつ速いストッパータイプの選手を配置すれば、昨季のフランクフルトでの長谷部のような役割も期待できる。それが可能なインテリジェンスをフンメルスは確実に備えている。

もちろん、フンメルスがリーダーとなり、シーズンを通してフル出場する事は難しいだろう。選手は試合に出てナンボと言う意見もある。しかし、出戻りとは言えフンメルスが新加入のベテラン選手となった今、重要なのは以前のようにバリバリ毎試合出場する事ではない。

重要なのは、ピッチの内外を問わず若い選手の手本となり、チームをサポートできる存在である事だ。そして、ここぞと言う大事な場面で安定したパフォーマンスを発揮できる、計算できる存在である事だ。それは、実績、経験を積んだベテラン選手にしか出来ない。その意味で、おそらくフンメルス以上の選手は世界を見渡しても多くはない。

ドルトムントが衰えているとされるフンメルスと3年契約を結んだのは、おそらくそのようなベテラン選手としての役割を期待されての事だろう。それはチームにとって大いに価値のある事ではないか。少なくとも、来季のブンデスリーガはこれで少し面白くなりそうな気がする。FCバイエルン、ドルトムント、そしてブンデスリーガにとってもメリットのある、良い移籍だと考えている。