11月の急激な感染者増で、政府が国民をワクチン接種に向かわせる圧力が強めたのは既に書いた通りだが、その中で頑なにワクチン接種を拒否し続けた有名人がFCバイエルンに所属するヨシュア・キミッヒである。
日本でもサッカーファンならその名前を知らない者はいないだろう。もはやドイツナンバーワンと言って差し支え無い選手であり、2024年の自国開催EUROでは間違いなくドイツ代表のキャプテンになる筈だ。
このワクチン接種を拒否する者は完全な悪人扱いされる国内の風潮の中、キミッヒは更に有名人という事も手伝って強烈なバッシングに晒された。これには本来選手を庇うべき所属クラブであるFCバイエルンまでキミッヒに苦言を呈しており、まさに四面楚歌の状況である。
何せワクチン接種なしでは濃厚接触者というだけで試合に出れなくなる。この状態がチームにとって喜ばしい訳はないので、庇いようがない。かと言ってワクチン接種を強制する事は出来ないので、FCバイエルンはこの為にキミッヒの給料を削減すると言う荒療治に出るまでに至った。しかしキミッヒの給料は我々一般人には途轍もない金額なので、多分減給は屁でもない。
ところが、そのワクチン接種を拒否していたキミッヒは自身がコロナに感染してしまったのである。もちろんワクチンを接種してても感染する事はあり得るのだが、世間はこれで「それ見たことか」と言わんばかりに更にキミッヒに対するバッシングを強めた事は想像に難くない。もはやキミッヒのワクチン接種は政治的なテーマに発展していた。
しかし、キミッヒはおよそ1週間ほど前、これまでの意思を覆し遂に自らワクチン接種の意思を表明した。実際にはコロナに感染する前に接種の予約は取り付けていたが、その前に感染してしまったと述べている。新たなドイツの健康相であるラウターバッハはキミッヒは決して接種に反対していた訳ではなく躊躇していただけだとし、その判断を賞賛した。
インタビューに応じたキミッヒは目に涙を浮かべており、これまでのバッシングでかなりの心痛があった事が窺えた。キミッヒは接種に早く赴かなかった理由として、接種に対しての不安をどうしても払拭出来ず躊躇してしまったと述べたが、それは過ちであったと述べた。
事実キミッヒは11月6日以来試合から遠ざかってかおり、現在でも肺が完全に回復していない為、復帰は来年にずれ込む予定である。
また、ドイツでは一般的にスター選手は世間の手本になるべき存在とされており、これがキミッヒが四面楚歌になるまで叩かれ続けた理由だろう。キミッヒもそれは自覚していたが、どんなスター選手でもひとりの人間には変わりがなく、不安な気持ちが大きく踏ん切りがつかなかった事に理解を求めた。
しかし、同時にキミッヒはこのインタビューでこれまでの常軌を逸した、興味本位で報道する一部のマスコミを痛烈に非難した。と言うのもこの件でキミッヒのプライベートの事情が世間に広まり、何でも祖父の葬儀にまでマスコミが追いかけてきたそうだ。これには相当な怒りが見てとれた。
更にキミッヒは、このパンデミックの最中は政治家を含めた多くの人が過ちを犯してきたと指摘し、何故自分だけが四面楚歌の状況で上記のような行き過ぎた非難を受けるのか理解に苦しむとも述べている。
今回キミッヒが接種意思を表明した事は、世間で同様に躊躇している人を接種に向かわせるシグナルになる事は間違いない。しかしキミッヒは接種はあくまでも個人の判断に委ねるべきだとし、皆がよってたかって圧力をかけて接種に向かわせる現在のやり方は正しくないと意見を述べた。
因みにキミッヒは非常に頭が良い事で知られており、ドイツの大学入学資格であるアビトゥーアを平均評点1,7(最高1)で取得している。このインタビューも非常に誠実かつ理路整然としており、個人的にも非常に同意出来る内容だった。
個人的にはスポーツ選手、特にサッカー選手に関しては突然の心停止などの事故はこれまでも見られた事であり、不安になるのは理解出来る。キミッヒはワクチンを打たなかった事を過ちと述べたが、長期的に見て本当にそうなのか、躊躇する人が居ても当然だろう。私はよってたかって未接種者を袋叩きにする今の風潮の方が余程問題だと認識しており、そのような議論からは距離を置いている。
そうは言っても、接種しない事には生活の自由が著しく制限されてしまう事実はどうしようもない。来年の2月からはブースター接種なしでは接種証明の有効期間が9ヶ月間に限定される。今後一体何度ワクチンを打てば良いのか知らないが、今後もこのワクチンありきの社会が続くと言う事だ。