前回の続きになる。現在ドイツ与党最大勢力であるCDU/CSU連合は今年9月に実施される連邦議会総選挙に向けて、公式に首相候補を擁立せねばならない。ここで擁立される首相候補は今年退任するアンゲラ・メルケルの後を継ぐドイツ首相の圧倒的な最有力候補となる為、非常に注目される政治決定となる。
本来ならばこれはCDU党首アルミン・ラシェットの椅子なのだが、決定最終段階で国民から圧倒的な人気を誇るCSU党首マルクス・ゼーダーがドイツ首相への意欲を表明した為、この両者によるドイツ首相の椅子を掛けた権力闘争が幕を開けた。これは投票ではなく、基本的に党内の話し合いによって決定される、つまり結局どちらかが引かなければ決定不可能な事項であるが、一向に両者譲る気配はない。
私は最終的に国民から圧倒的な支持を取り付けているゼーダーが決定されるだろうと予測した。何故なら国民から不人気のラシェットが首相候補となれば連邦議会選挙で下手をしたら緑の党に敗北するリスクが高まるからだ。事実、本来ならばラシェットの後ろ盾となるべきCDUの議員の多くもゼーダー支持に回った事が度々報道されており、ゼーダーに有利な風が吹きつつある印象だった。
しかし、この争いに勝利したのは意外にもラシェットだった。最終的にゼーダーはこの決定をCDU側に委ねた模様で、月曜日の夜6時間の長い協議ののち、CDUの幹部によりラシェットかゼーダーかの投票が行われた。そしてこの投票はラシェット33票、ゼーダー9票、保留6という結果でラシェットが勝利した。この結果、ゼーダーは首相候補への立候補を取り下げ、自ら記者会見でラシェットがCDU/CSU連合の首相候補として擁立される事を述べた。
この結果、アルミン・ラシェットはアンゲラ・メルケルの後を継ぐドイツ首相の座に大きく近づいたと言える。
後は9月の連邦議会選挙の結果次第になるが、CDU/CSUの最大のライバルは間違いなく緑の党になる。その緑の党が擁立する首相候補もロベルト・ハベックとアンナレーナ・ベアボックの2択となったが、こちらは女性であるベアボックが擁立された。これにSPDが擁立した首相候補である現財務相オラフ・ショルツにも理論上の可能性は残されている。
しかし、SPDが次回の総選挙後に再び与党入りする事は考えにくく、事実上はラシェットかベアボックのどちらかがドイツの新たな首相となる。もっともベアボックは州の首相や大臣などの政府要職の経験は無く、ドイツにとってはかなりリスキーな選択になる。
ラシェットの国民からの支持率は相変わらず低空飛行で、ベアボックやショルツよりも低い。しかし忘れてはならないのが、ラシェットはこれまでも劣勢を覆し最後で逆転勝利でここまで登り詰めてきた。もともと全く期待されていない地味な存在から、CDU党首選で圧倒的有利と言われたフリードリヒ・メルツを破り、更には国民から次期首相として圧倒的な人気を誇るゼーダーを蹴落とした政治力は筋金入りだろう。
9月総選挙までには例によってスキャンダルが発覚するか、或いは夏に再び熱波などが来れば更に緑の党が躍進するなどの波乱要素は十分にある。しかし、最終的にはCDU/CSU連合に緑の党、これにFDPあたりを加えた連立政権をラシェットが首相として率いる可能性が最も高いだろう。