ドイツ都市部の不動産価格がここ数年で急激に上昇し国内の政治問題になっている事はこれまでも記事にしてきた。これは現在では私ら庶民の生活を脅かす極めて深刻な問題に発展し、ベルリンなどは家賃価格の上昇を完全にストップするという決定が下されるにまで至っている。しかし、一方でドイツには逆に安すぎて問題になっているものもある。それが食料品だ。
実際に、私の感覚から言ってもドイツの食料品は極めて安い。特にアルディ、リードルといったディスカウントストアの価格は異常と言って良い程にさえ見える。例えば、最近のアルディのチラシによると、500グラムの牛挽肉が1,99ユーロ(239円)、700グラム豚あばら肉が2,99ユーロ(359円)である。
このようなダンピング価格で生産者である農家が甚だ十分な儲けを得ているのか、或いは動物たちがまともな環境で飼育されているのか、我々一般消費者が疑問を持つのも当然であろう。この状況を前にして、最近ドイツ各地では自らの労働に対する正当な対価を求める農家のデモが頻発しており、更には動物保護団体もその劣悪な飼育、屠殺環境を痛烈に批判していた。
そして、先週遂に首相のメルケルが自ら大手食料品スーパー4社を呼び出し、この異常な低価格競争の是正を求める会議を開くに至った。この会合には農業相のクレックナーと経済相のアルトマイヤーも同席した。呼び出された4社とはエデカ(EDEKA)、レーヴェ(REWE)、リードル(LIDL)、アルディ(ALDI)である。
何故この4社かと言えば、彼らだけで業界シェア全体の85%を占めているからだ。つまり、この業界で生き残るにはこの4社と取引できるかが死活問題になっており、4社はこの絶対的なポジションを利用して仕入れ先に異常な低価格を要求しているのは予想がつく。この会合でメルケルはこの大手4社に仕入れ先に対しフェアな条件で取引をするように釘を刺したとされる。農業相クレックナーは法律による規制をほのめかした。
もちろん、このスーパー4社も低価格という消費者の求める事を追求した結果勝ち組になっている訳であり、一方的に非難する事はできない。住居価格をはじめとした生活に必要なサービスが軒並み値上がりしている昨今の状況では、まだ食料品価格が低いことは庶民にとって唯一の救いでもある。
しかし、「ダンピング価格が長期的に横行することは間違いであり、危険なシグナルだ。これでは商品や生産者の価値が認められる事はない」というクレックナーの発言は正しいだろう。以前アルディがステーキ肉を犬のエサみたいな価格で売って物議を醸したことがあるが、物の価値に対する間違った認識が社会全体に蔓延するのは大いに問題がある。
そして、ドイツにこの安い食料品価格を定着させたのは他でもないそのアルディ、リードルと言ったディスカウントストアと言われている。その異常な低価格路線はドイツの消費者を長年に渡って甘やかしてきた。これは、無料サービスが横行し、些細な事でぶち切れるモンスタークレーマーを育ててきた日本にも似たところがある。
おそらく、現政権ですぐにこの状況を法律で規制する事はないだろうが、行き過ぎないところで国が割って入り釘を刺したのは悪い事ではない。しかし異常に高騰する不動産価格の一方で、異常に安い食料品価格が横行する現状を見れば、国内の格差はここ数年で一気に広がっている事を実感せざるを得ない。