ヨーロッパで最悪レベルと言われる、ドイツのモバイルデータ通信環境

最近ドイツでも新たなモバイルデータ通信システムである5Gが話題になっている。この超高速、大容量通信技術が本格的に実用化されるとなると、車の自動運転や遠隔医療など、我々の生活を大きく変革するようなサービスが可能になると言われている。ドイツが国を挙げて進める社会経済のデジタル化でも中心的な役割を果たすであろう技術である。

メルケルは昨年の年始スピーチで”Die Welt wartet nicht auf uns”=「世界は私たちを待ってはくれない」と述べた。その通りだろう。我々の生活を為すあらゆる分野においてデジタル化を推し進め、それを活用していかなければこの先の持続的な発展はない。

しかし、その意気込みとは裏腹に、ドイツのデジタル化は他国に比べて遅れを取っていると言われている。その象徴とも言えるのが、先に挙げた5G以前の4G、つまり我々が現在利用しているLTEの利用環境がそもそも劣悪なことが挙げられる。

昨年のドイツを象徴する言葉の第2位は”Funklochrepublik”だったが、これは電波の届かない地域の多いドイツの劣悪なモバイルデータ通信環境を揶揄した造語である。それだけ国民はこの状況を不快に感じていると言う事だ。国民がうんざりしているのは、遅延欠便を連発するドイツ鉄道だけではない。

更に、それがどの程度酷いかという事が他国との比較で明らかになった。これは連邦議会のGrüne(緑の党)が委託したもので、昨年の7月から9月までのヨーロッパ500万人の利用データを解析したものだ。

そして、それによるとドイツのLTEサービスエリアはヨーロッパでは下から3番目という結果か出た。これはヨーロッパの最貧国の一つと言われるアルバニアよりも悪い。このアルバニアよりも劣悪な環境と言うのはやはり少々衝撃だったらしく、様々なメディアでニュースとなった。因みに1位はオランダである。

オランダとドイツは両国ともモバイル通信はドイツテレコムが最大手なのだが、オランダでは既に90%の地域でLTEが利用可能なのに対して、本家ドイツでは75%しか利用できない。更にドイツでは2番手ボーダフォンは57%、3番手のテレフォニカ(O2)のLTEサービスエリアに至っては50%にも満たない。ヨーロッパ最大の経済大国がこれでは立つ瀬がない。

この状況には経済相のアルトマイヤーもかなり立腹の様子で、改善が無ければ通信事業者にペナルティを課す意思を新聞のインタビューで表明した。アルトマイヤーは11月のインタビューでもこの状況は技術大国ドイツの恥さらしであるとし、更に会話の途中で電波が切れるのが恥ずかしいから、他国の大臣とは外出中の車の中では電話をしないと述べている。

更に我々庶民にとって痛いのは、ドイツのモバイル通信に関しては質が悪いだけでなく、価格も高い事にある。Chip onlineによるとドイツで月額30ユーロを払えばおよそ30ギガバイト分LTEを利用できるそうだが、オランダやデンマークでは同じ金額を払えばLTEの使い放題プランが契約出来るらしい。ドイツに住む私にとっては羨ましい限りだ。月30ユーロでLTEが使い放題なら固定電話回線も必要ないだろう。

この理由は回線事業者に言わせれば、ドイツの場合、LTEの電波を送信するライセンスを国から買い取らねばならず、まずそれが非常に高額である。更にドイツはヨーロッパの中では人口密度が高く、多くのLTE基地局が必要になるのに加え、国土に山地なども比較的多く建設するのも高額になるとの事だ。

なるほど、確かに多くの国ではモバイル回線の普及を国が助成しているのに対し、ドイツは事業者がそのコストを負担しなければならない。また、先に挙げたオランダやデンマークは確かに平地続きの土地なので、基地局が建設し易いのだろう。もっともオランダの人口密度はドイツより高いが、総じて言えば事業者側の言い分にも一理あるように思える。

更に現在、国内において事業者同士の競争原理が働いていない事も問題視されている。現在ドイツのモバイル回線事業者は先に挙げたドイツテレコム、ボーダフォン、テレフォニカ(O2)の3社であるが、何れも現状に満足しているのか新たな低価格プランなどでシェアを拡大しようと言う雰囲気は見られない。利用者側もこれまでは文句を言いながらもこの低品質、高価格を受け入れているという事であり、それだけ国民一人頭の経済力も高いと言うことか。

勿論、新たな事業者が参入してくるのであればこの状況は変わるのであろうが、結局先に挙げたライセンス料が高額だったり、基地局の建設などにお金がかかるようであれば、わざわざ通信事業をドイツで始めようとは思わないだろう。当然、この国内3社も確実に儲かる都市部にだけ良い通信環境を構築するが、利用者が少なく赤字になる田舎は放っておこうという話になる。ドイツが電波の空白地帯だらけの国なのは、どうやらそのような事情がある。

しかし、さすがに国を挙げてデジタル化を推し進めて、これから5Gを始めようと言う時に、アルバニア以下のLTE環境という事になると、早急に対策を打たなければマズいという話になる。そこで以前から提案されているのが、いわゆる国内ローミングである。

つまり、通信プロバイダは、場所によって自動的に強い電波を放つ回線事業社の電波を自由に選択してサービスを提供できると言うものだ。例えば私はCongstarと言うプロバイダを利用しており、このプロバイダは現状では常にドイツテレコムの回線を利用する。しかし、国内ローミングが有効になれば、ドイツテレコムの電波が弱い地域に入った場合、ボーダフォンかテレフォニカの回線に自動的に切り替わると言うものだ。

そして、この国内ローミングは今年競売に出される次世代の通信システム5Gライセンス買取条件の一つにもなっている。しかし、当然現状に満足している回線事業者はこの国内ローミングに大反対している。とりわけドイツで最も強い回線を持つドイツテレコムにとっては都合が悪い。自社回線の電波を何の取り決めも無しに競合他社に利用されるとなると面白くないのは当然だろう。

この他にも5Gライセンスの買い取りに関して国は回線事業者に対してかなり厳しい条件を課しており、かなりの物議を醸している。これに対しては既にドイツテレコム、ボーダフォン、テレフォニカの3社とも法廷に訴える意思を表明しており、今後更に紛糾する事は間違いない。

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