私事で恐縮だが、昨年よりさまざまな事情からずっと引越しを目論んでおり、何とか希望に沿った新しい住居を見つける事ができた。ここ数ヶ月更新が途絶えていたのはその為である。ミュンヘンで新たな住居を見つけるのが如何に難しいかは私も何度も記事にしており、これは実際に本当に骨の折れる作業だった。住居を見学に来た多くの候補者の中からわざわざ私を選んだ貸主が存在するなど、本当に信じられないくらいのラッキーだと言える。
しかし、当然ながら引越しは新たな住居を見つけて終わりではない。家具などの運搬設置、旧住居の解約、引き渡し、改修など、手間と金のかかる作業が山ほどある。これらのストレスが想像以上に大きかったので、備忘録としても記しておきたい。
まず、新たな賃貸契約にサインして直ぐに行うのは、旧住居の賃貸契約を解除する書面を貸主に送付する事であるが、これは後述する。取り敢えず、家具などを新たな住居に運ばなければならない。
これは当然引越し業者に頼む事ができるが、自分で行えば遥かに安く付く。ドイツは一般に日本よりもサービス料金は高いので、私は基本的に多少難しそうでも自分で出来そうな事は自分で行うようにしている。
そもそも、絶対に助けが必要なのは洗濯機や冷蔵庫といった大型家電やタンスやクローゼットなどの家具の運搬である。最低限これらの運搬に大型の車を借りて2人程度の助けを得れば、ひとまず何とかなる。車は知り合いを通じてカーシェアリングのバンを借り、手伝いは人材派遣会社が紹介してくれた学生2人が時給15ユーロで来てくれた。業者に頼めばおよそ800ユーロ程度が、総じてこれで半額以下になる。多少のアクシデントもあり疲弊もしたが、これはまあ総じて上手くいった。
しかし、大きな問題がまだ2つあった。一つは私の後に入る新たな入居者を確定させる事。もう一つは旧住居の改修作業である。
まず、旧住居への新たな入居者の確定であるが、これは一刻も早く確定、入居してもらう必要がある。何故なら基本的にドイツでの賃貸住居は、解約の書面を月末締め(正確には翌月の3営業日まで)に提出し、その3ヶ月後に解約が可能となる。例えば、10月末に書面を受け取って貰った場合、実際に解約となるのは1月末になる。つまり、新たな入居者がその間に見つからなければ、3ヶ月間旧住居と新住居をダブルで家賃を払うと言う悪夢のような事態となる。
私は昨今の情勢から言えば直ぐに新たな希望者が殺到し、すぐに決まるとタカを括っていた。まあ確かに応募者は殺到し、直ぐにでも入居したいと言う希望者は何人も居た。それこそ、現在一人部屋に数人で住んでいるような家族も何人もいた。ミュンヘンの賃貸住居事情が普通ではない事を実感したものだ。しかし、新たな入居者はなかなか決まらない。
そもそも、新たな入居者の決定権は私ではなく貸主にある。貸主にしてみれば、別に直ぐに新たな入居者を決めなくとも、3ヶ月間は少なくとも私からの家賃収入は確保されているので、慌てる必要はまったく無い。慌てて変な入居者に決めるよりは、散々選り好みをするのだ。結局2ヶ月分は家賃をダブルで払う羽目になった。1ヶ月間は仕方ないにしても、2ヶ月は想定外だった。
そして、ともかくも新たな入居者が決まってほっとしたのも束の間、次に問題となったのは旧住居の改修についてである。貸主が私の改修作業の出来にケチをつけてきたからだ。問題となったのは天井及び放射式暖房のペンキ塗りである。貸主はこれらの改修作業を退去までにやり直すか、1000ユーロ払うかの2択を私に迫って来た。
このうち天井についてはペンキ塗り出来ない理由があった。私はこれを業者に実は頼んだのだが、私の家には何故か天井に壁紙が貼ってあり、しかもこれが間違った粘着剤を使っていたので、ペンキ塗りをした場合、壁紙が落ちてくる可能性が高いので無理だと言われた為だ。これは既に貸主に伝えてあったのだが、にも関わらず塗ってないことを改めて非難されるは思わなかった。
放射式暖房のペンキ塗りも元々行うつもりでいたのだが、私はこれは本来する必要が無いのではと少々悩んでいた。何故なら私の賃貸契約書には暖房の色塗りに関しては「一般的に10年毎、必要に応じて」と明記してあり、私が住んでいたのは9年間だったからだ。しかし「必要に応じて」とも書いてあり、確かに一部は色が剥げたりしている。
ドイツはこう言った場合、基本マナー云々ではなく法律に従って動く事は経験上知っていたが、やはり借りたものは綺麗にして返さねばと思い、結局私は合計5個ある暖房のうち、著しく色が剥げている1つは業者に完全に塗り直してもらった。残りの4つはほぼ問題ないレベルだったが、念のために部分的に塗って、どう見ても大丈夫だと思われるまで修繕した。しかし、これも結局「塗っていない」と(不当な)クレームがつけられた訳だ。
更に、もし作業をやり直すなら“fachgerecht“=「専門的にみて妥当なレベル」で行えと、クギを刺してきた。確かに法律ではそのように明記してある。しかし、私から言わせれば、これで「やり直し」など、幾らやってもケチをつけられるのではないかと疑心暗鬼になった。
また、金額については、仮に天井を塗ったとしても200ユーロ程度、暖房を全て塗り直したとしても250ユーロ程度である。つまり私が完全譲歩したとしても500ユーロ程度の金額だ。1000ユーロに要求など、厚顔無恥も甚だしい。もしかしたら多くの人はこのような場合、お金を払ってパッと解決するのかもしれないが、こんなどう見ても金欲しさの不当な要求には私は1セントも払いたくない。まあ天井は元々するつもりだったので、これは交渉の余地があると貸主に伝えた。しかし、それ以上の譲歩は現時点では出来ないとも伝えた。
結局貸主側もこれに応じなかったので、弁護士に問い合わせる事にした。私は住居に関してこのような著しく不当な要求に抗戦できるように保険に入っているので、今回はこれを利用した。しかし、弁護士に聞くのも本当に面倒かつ不快である。電話は繋がりにくいし、繋がっても基本不親切、必要な証拠書類や写真を揃えて送らなければならない。年末のこの忙しい時期にそれは本来は避けたかったが、背に腹は変えられない。
結局、弁護士によると、天井のペンキ塗りに関しては私は何もする必要はない。私が9年前に入居した時点で、天井の壁紙が一部剥がれかかっていた事は記録にも残っているし、壁紙が落ちてくるリスクが高い事は業者によって書面で明らかになっているので、これは完全に貸主の責任と言う事が証明可能である。
一方の、暖房のペンキ塗りに関しては少々面倒な事態となった。弁護士に言わせれば、「一般的に10年毎に」と契約書に書いてある通り、そもそも私は塗る必要など無かったらしい。しかし、一旦塗ってしまえばそれは”fachgerecht”=「専門的に妥当なレベル」である事が法律で定められている。
私は写真を送ったが、このうち完全に業者が塗った一つはまず問題ない。問題は部分的に塗った残りの4つである。これも写真を見る限りは問題ないようには見えるが、完全に非の打ち所がないかは写真だけでは分からない。逆に部分的に塗った事で状態が酷くなったと貸主側が更に難癖つけてくる可能性があるので、状態を査定できる証人を呼ぶ必要があるとの事だった。この証人を何人か紹介されたが、これは呼ぶのに若干お金がかかる上に、余りにも面倒臭くなりそうだったので、結局200ユーロ払って4つの暖房を業者に頼んで完全に塗り直してもらった。
この引越しの際に改修作業におけるトラブルはもはや定番と言われており、誰が何をする義務があるのかはしばしば裁判となっている。本来私も事前にそういった事を調べるべきだったのだろうが、さまざまな作業で非常に疲弊しており、残念ながらそれができなかった。まあ1000ユーロの要求が、200ユーロになったので良しとするが、本来する必要のない暖房のペンキ塗りを自らのモラルに従って行った結果、余計な出費とストレスを生じさせる皮肉な結果となった。
まあそう言う訳で、非常に疲弊してしまい、ここ2ヶ月間くらい世間で何が起こったのか殆ど把握していない。とは言え、取り敢えず鍵は無事に返した。そうこうするうちに年も明けたので、叙々に普段の更新ペースを取り戻していきたい。