ミュラー、フンメルス、ボアテング、ドイツ代表構想外となる

2019年のドイツ代表はまず今月の20日にセルビアとのテスマッチをホームで行った後、24日にEURO2020の予選オランダ戦に臨む。先日はGKテア・シュテーゲンがこれまでアンタッチャブルだったノイアーから正GKの位置を奪う意思を明確にし、代表チームへの関心も再び高まってきた。この件に関しては監督のヨアヒム・レーヴはテア・シュテーゲンに今後チャンスを与えるとしながらも、ノイアーが正GKであるというスタンスを崩していない。

しかし、レーヴはフィールドプレーヤーに関しては先日、招集メンバー発表に先立ち世間を大きく驚かせる決断を発表した。これまでの代表の顔でありFCバイエルンの3名、ミュラー、フンメルス、ボアテングを代表チームに今後招集しない方針を明らかにしたのだ。

確かにドイツ代表は現在世代交代の最中でもあるが、2014年W杯の優勝組の多くは依然として30歳、或いはまだその手前だ。やや衰えが見えるのは事実だが、次回のビッグトーナメントであるEURO2020まではまだ十分にチームに貢献できる。チャンピオンズリーグで幾度もの修羅場を潜り抜け、2018年W杯で史上初のグループリーグ敗退という苦い記憶もある。詰まるところ、その経験は何者にも代え難い。世間に物議を醸すのも当然と言えるだろう。

もっとも、この3名のうちボアテングに関しては既にレーヴの構想外になっているのは予想できた。というのもボアテングは昨年10月のネーションズリーグ、アウェーのオランダ戦で誰がどう見ても今後の起用に非常に不安を持たざるを得ない、低調かつ不安定な出来だったからだ。そして昨年最後の代表戦、ホームでのオランダ戦は招集を見送られていた。

表向きは「休養」という理由だったが、この試合はリーグA残留およびEURO予選におけるポット1の掛かった重要な試合だったので、既にこの時から構想外は決定済みだった事を窺わせる。現在はFCバイエルンでもファーストチョイスから外れている。

現在30歳、これまで76キャップを誇るボアテングが代表にデビューしたのは2009年である。屈強な体格、身体能力を活かした対人守備で部類の強さを発揮するタイプのCBだ。当初は本職のCBではなくSBで起用されることが殆どだった。ドイツは当時からフィリップ・ラームを除くSBの人材難に悩まされており、このポジションを埋める形で3名の中では最も早く代表にデビューした。

本職であるCBに定着したのは優勝した2014年W杯の決勝Tからだ。特にこの大会の決勝戦は私が記憶している中ではボアテングのベストマッチと言える。ボアテングはこの試合、その無類の対人守備の強さであのメッシをほぼ完全に抑え込んだ。特に後半、相棒のフンメルスがかなり疲弊した一方で、ボアテングは最後まで鬼人の如く立ちはだかりアルゼンチンの攻撃をことごとくストップした。この試合の勝利はボアテングなしには考えられなかった。

その後ボアテングは屈強な対人守備のみならず、左サイド前方へ繰り出すダイアゴナルのロングパスも駆使するようになり更にその株を上げた。EURO2016の守備陣のボスは間違いなくボアテングだったと言える。しかし、そのアスリート能力を前面に押し出したスタイルからか、ここ2年で急速に力を落とした感がある。FCバイエルンでは同様に屈強なタイプのズューレが台頭してきたのもあるだろう。

本人もこの戦力外は近いうちに来ると予想できていたのか、レーヴの発表の後に最も早くコメントを出し、その内容も3名のうち最もマイルドで批判色の少ないものだった。

一方残りの2名、フンメルスとミュラーに関してはこのタイミングでの戦力外発表はかなり意表を突かれた。直ぐにコメントを出したボアテングとは対照的に、両者ともやや時間をおいて落胆と怒りが感じられるコメントを出している。

まず70キャップを誇るCBフンメルスであるが、昨年あたりから年齢(30歳)からくる衰え、特にスピード不足が指摘されておりブンデスリーガでも昨年最も評価を落とした選手の一人として認知されていた。同じCBでもボアテングがひと昔前で言う屈強な「ストッパー」タイプであるのに対し、フンメルスは「リベロ」に近いタイプのCBだ。

つまり、フンメルスは対人守備はボアテングのように強くない。確かにタックルやブロックと言ったクラシックなCBとしての能力も低くは無いが、それはフンメルスの強みではない。フンメルスが優れているのは鋭い読みから前方へせり出し、高い位置でボールを奪取する能力に長けていることだ。逆に言えば非常に攻撃的でリスクの高い守備スタイルである。故に基本的にボアテングのような屈強で身体能力の高いパートナーを必要とした。守備だけならフンメルスは単なる「良い選手」だ。

しかし、フンメルスを特別にしているのがそのボール配給能力である。その類まれなパスセンスとキックの精度、多彩さで攻撃の起点としても機能し、これは私の目から見てドイツでは傑出していた。更にヘディングも比較的強くセットプレー時の貴重な得点源でもあった。得にドイツ代表ではレーヴがテクニカルな選手を好んで起用する為、サイドからのセットプレーで期待できるのはほぼフンメルスしかいなかった。

フンメルスはCBながら非常にオールラウンドな能力を兼ね備えた選手であり、FCバイエルンでもズューレのパートナーとしてはボアテングより適しているという事だろう。2週間前のチャンピオンズリーグ16強リバプール戦では、攻撃に色気を出さず守備に専念して見事なパフォーマンスを見せ、未だ世界のトップレベルで通用する事を証明したばかりだ。本人としては納得が行かないのも当然だろう。