ドイツにはネット上の暴言を取り締まる法律”NetzDG”が存在する

日本でネット上による誹謗中傷が問題になっており、これには私も非常に心を痛めていると言っておきたい。残念ながら日本におけるネット掲示板などで見かけるコメントには多数の度を越した誹謗中傷、暴言が見受けられ、これは今後拡大していくデジタル化社会でも見過ごすことの出来ない問題である。

このようなネット上の暴言、誹謗中傷などは間違いなく日本に限った話ではないだろうが、ドイツの場合は既にこれを取り締まる法律が存在するので紹介しておく。この法律はNetzwerkdurchsetzungsgesetz”という長い名前故、通称”NetzDG”と呼ばれており、2017年の10月から導入されている。

簡単に言えば、ソーシャルネットワークにおいて投稿された誹謗中傷、フェイクニュース、脅迫、民衆を扇動するような発言がこれに該当する。明らかに違法な発言は24時間以内に削除、微妙なものは1週間以内に削除されるか、然るべき機関に審査されなければならない。怠った管理人は最大500万ユーロ、実際に投稿した者には最大5000万ユーロの罰金が課される。その他にも管理人には定期的な報告の義務などが課されている。

この法律の存在を私が知るところになった理由は、この法律の導入直後にポピュリズム政党AfDがツィッターで「イスラム教の野蛮で集団暴行をする男連中」と明らかにイスラムを差別し敵対視する投稿で物議を醸したからだ。警察はこの投稿をしたAfD政治家を民衆扇動の罪で犯罪を告発する事態となった。

もっとも、AfDはこの法律を知っていながら当時敢えてそのような差別的な投稿を行い、自分たちの意見が抹殺された被害者だと訴える目的があった。この顛末がどうなったか私は知らないが、この法律は言い換えれば、民主主義社会で極めて重要な言論の自由をを制限するとされ決定前に大いに揉めた事は確かだ。とりわけAfDなどは差別や誹謗中傷が疑われる発言で支持を集めていたので、この法律に猛反対していた記憶がある。

しかし、この法律の内容の是非はともかく、公共の平和や個人の尊厳を損なう発言に対して言論の自由が制限されるのは止むを得ないと思っている。もちろん、本来ならばそのような法律無しに各々が自覚してこのような問題が起きない事が望ましいが、事はそう簡単ではない。ドイツは例によってルールを作ることで解決を試みており、導入から今年の初めまでおよそ1300件の事例があったとの事だ。今年の末にこの法律の内容はもう一度再審査されることになっている。

日本でもネットでの誹謗中傷は罪に問えるようだが、現実的には他者を貶める悪意に満ちた発言は増加する一方という印象を持っている。例によって個人の配慮やマナーに委ねるのか、或いはドイツのようにルールを作って規制をするのか、非常に難しい問題なので十分に議論をした上で実効性のある解決策が望まれる。

詰まるところ、デジタル技術やAIが発展し世の中が便利になればなるほど、これまでにない人間的かつ抽象的、複雑で矛盾を孕んだテーマが増えてくる。にも関わらず、最近は文系の学問を縮小するなど本当に悪い冗談だと思いたい。人間を中心に見る視点を失えば、どんな素晴らしい技術や金銭的な豊かさも人々を幸福にする事は出来ないだろう。