前節のウクライナ戦で比較的安定した試合を見せたドイツは、ネーションズリーグのグループ4で首位に立ち、最終節このスペイン戦に引き分ければファイナルラウンドへの進出が決まる。来年のEUROを占う意味でも非常に重要な試合である。コロナ禍で庶民の娯楽もままらなない中、この試合を楽しみにしていた国民も多かっただろう。私もその一人だ。
しかし、蓋を開けてみればとんでも無い試合を見せつけられた。余りの酷さに私は前半だけしか観ていないが、それはそれで多くの感想があるので、振り返りたい。
まずドイツは前半17分、コーナーキックからファーサイドへの高いボールにフリーでヘディングを許し失点する。得点した189cmのモラタをマークしていたのは、よりによって一番小さいニャブリである。190cmクラスの屈強な選手を揃えながら、それは無いだろう。
スイス戦、ウクライナ戦も酷い守備で先制点を許しその後追いついたが、今回の相手はスペインだ。レベルが違う。この失点はその後の崩壊を予感させるには十分の酷い守備だった。
同点に追いつくべくやや前がかりになったドイツだが、前方にボールを運ぶ事すら難しい状況である。逆にスペインにボールを支配され、そのテクニック、パス回しに右往左往するばかりだ。特にクロース、ギュンドアン、ゴレツカの中盤はどこに居るかも分からない。左サイドのマックス、コッホは完全な弱点と把握され、スペインはここからチャンスの雨嵐を創出する。
しかし次なる失点はドイツ右サイドからだ。ギンターは中央へ易々とクロスを許し、更に中央のコッホの寄せは甘くフリーでヘディングを許す。これがバーに当たった跳ね返りを、フェラン・トーレスは「せーの」と言わんばかりの余裕をもってズドンとゴールに突き刺した。
更に38分は再びコーナーキックから中央からヘディングを許し失点する。マークしていたギュンドアンは競り合いすら行けておらず、もはやお話にならない。本来なら後半に向けて反撃を期待したいところだが、この希望もヘチマもない前半をみれば、もはや歴史的惨敗は十分に予想できた。
前述した通り、あまりの体たらくに後半は観戦していない。ノイハウス、ヴァルトシュミットといった若手を投入した模様だが、こんな戦況で投入されるなど殆ど罰ゲームだろう。更に驚かされたのは76分に0-5の時点でFWのヴェルナーに代えて守備的なヘンリックスを投入した事だ。要するに1点を返すより、0-5のスコアをキープする事を優先したと言う事だ。
そんな恥も外聞も無い采配も虚しく、終わってみればドイツは更に1失点を喫し、1931年以来となる0-6の惨敗となった。更にこれよりも酷いスコアで負けたのは1909年、つまり帝政ドイツ時代、まだ監督など存在しない時代、まさに歴史的なレベルの話だ。またドイツは2014年W杯でブラジルに7-1という歴史的勝利を飾っているが、昨日はまさに当時のブラジルの屈辱を味わう立場となった。
そして更に残念な事は、結果以上に内容が酷かった事だろう。なんとシュート数は23対2、ボール支配率は70対30、パスの数は812対352である。もはや強豪国とどこかの弱小国のスタッツだろう。もっと悪く言えば、昨日のドイツは完全な烏合の集、或いはエサをひたすら追いかけ回す犬のように振り回された。
はっきり言えば、この敗戦の責任が誰にあるかと言えば、紛れもなく監督のヨアヒム・レーヴだ。解説のシュヴァインシュタイガーは選手に奮起を求めていたが、現代サッカーの最高峰のプロ、FCバイエルン、レアル・マドリードをはじめとした選手たちを擁しながら、あの内容、あのスコアはあり得ない。FCバイエルンに至っては昨季のチャンピオンズリーグの覇者である。
まあ百歩譲って確かに守備は人材不足で、特に両サイドバックの質の低さに関しては、レーヴに同情の余地はある。
特に昨日狙われた左サイドバックのマックスは今回が代表初招集で、しかも今回の3連戦全てに出場し疲れもあった筈だ。ここが弱いのは計算に入っており、誰が監督でも厳しい。同様に右もギンターを起用したが、ここも苦肉の策である。守備はともかく攻撃は全く期待できない。
但しセンターバックに関して言えばFCバイエルンの主力であるズューレを擁し、更にはフンメルス、ボアテングを呼び戻すと言う手もある。このカードを捨てたのは他ならぬレーヴ自身である。もはや現在のメンバーが通用しない事が分かった以上、少なくとも両者の戦力外は撤回せざるを得ない。
また昨日に関しては、序盤やや引き気味でカウンターを狙う戦術だった模様だが、クロース、ギュンドアンのコンビではどう考えても守備力が低すぎる。ゴレツカも本来なら攻撃で持ち味を出す選手であり、決してカウンター戦術に適した組み合わせではない。これだけでなく、つい最近までは5バックで中盤を支配しようとしたり、レーヴの戦術はここに来て大いに迷走している。攻撃に関しては人材は揃っているが、これも中盤で圧倒されボールを供給できなければ結局宝の持ち腐れだ。
少なくとも、先にに挙げたフンメルス、ボアテング、或いはミュラーの力は確実に再びドイツ代表に必要になるだろう。しかし、彼らとてプライドがある。あのような形で代表を干された以上、それ相応の誠意を見せなければ再び代表のユニホームを着ようとはしないだろう。昨日の覇気のない選手たちを見れば、問題は相当根深い事は誰が見ても明らかだ。誰がどう見ても沈没しようとしている船に今更乗りたがるだろうか。
キッカーのアンケートでは93%がレーヴをドイツ代表の監督として相応しくないとしている。昨日の試合をみれば当然だろう。個人的にベストの選択は、レーヴが白旗を挙げて自ら退任し監督交代という荒療治が実行される事だ。
しかし、今のところはその可能性は無さそうだ。確かにレーヴの契約は2022年まであり、今更来年のEUROに向けて新しい監督など余りにも時間が少な過ぎる。ただ、EURO後の監督の交代はもはや既定路線だろう。既に巷ではFCバイエルン監督ハンジ・フリックの名前がレーヴの後任として名前が上がっている。