2020年の”das Wort des Jahres”「その年を象徴する言葉」である”Corona-Pandemie”に対し、”Unwort des Jahres”が先週発表された。私はこれを一応「最も醜悪な言葉」としているが、厳密に言えば、正しいようで実は差別的、非民主的、非人道的であり、世間に著しい誤解を招く造語が選ばれる。今年は初めて2つの言葉、”Rückführungspatenschaften”と”Corona-Diktatur”が選ばれた。
まず”Rückführungspatenschaften”であるが、連れ戻しを意味するRückführung”とキリスト教の洗礼における代父母制度”Patenschaften”が組み合わさった合成語である。EUにおける難民受け入れ問題で生じた言葉である。
具体的には、2015年の難民問題以降EUは難民を各国で分担して受け入れる事になっているが、ポーランド、チェコ、ハンガリーはこれを拒絶して問題になっている。そこでEUが打ち出したのが、これらの国は他のEUの国で止むを得ず受け入れが不可能だった難民の送還の面倒を見る事である。つまり、”Rückführungspatenschaft”とは、これらの国々が難民の代父母のような立場となり母国への送還および受け入れを手助けするルールの事だ。
しかし、本来の”Patenschaft”におけるキリスト教の代父母になるような人は、それこそ信仰心があり人徳に優れた皆に手本となる人々の筈である。ところが、この”Rückführungspatenschaft”における、ポーランド、チェコ、ハンガリーは国々は難民を受け入れる事をはじめから拒絶しており、キリスト教において言われる困った人を助けようなどという意思は無い。
それどころか、ハンガリー大統領オルバンなどは難民は「イスラムからの侵略」と宣っている。私は政治的に迫害されて他国へ逃れてくる人を侵略などと呼び、更に難民を追放する事を誇らしげに主張する人間が支持されることに著しい違和感がある。
いずれにしても、このような難民を助ける意思がない国が、EUに強制されて難民の母国送還を引き受けることは本来のキリスト教における”Patenschaft”の意味とは全くかけ離れている。また、難民を連れ戻すことも本来なら”Abschieben”「追放」という言葉が一般的だが、これも”Rückführung”というマイルドな言葉に置き換えられた。詰まるところ、”Rückführungspatenschaften”という言葉は偽善的で世間に著しい誤解を与える言葉という事だ。
もう一つの”Corona-Diktatur”であるが、こちらは分かりやすい。”Diktatur”とは独裁政治であり、直訳すれば「コロナ独裁政治」になる。言うまでもなく、コロナにおけるロックダウン、マスク、ソーシャルディスタンスなどの規制は、民主的ではなく独裁政治だという主張である。コロナ規制に反対する右翼の連中を中心としたデモ隊などで好んで使用された。
しかし、これらの規制はコロナの感染から国民を守る為にやむを得ず行っている措置であり、独裁政治とは全く異なる。独裁政治とは、独裁者に反対すれば拷問や死罪もある理不尽かつ非人道的なものである。現在のコロナ規制を独裁政治などと呼ぶのは完全な屁理屈で、本当の独裁政治を被っている人々を貶めている事にもなる。
私から言わせれば、このような未曽有の危機の中で、実態をなんら真剣に把握しようとせずロクな規制もなしに対策を国民に丸投げする事こそ、無責任かつ酷いポピュリズムだ。最近は変異種なども確認されており一向にコロナは収束する気配はないが、間違っても”Corona-Diktatur”などという馬鹿げた言葉に惑わされてはならないだろう。