2021年ドイツでもっとも醜悪な言葉は”Pushback“

最近忙しくて全く更新できていないのだが、遅ればせながら2021年ドイツの最も醜悪な言葉を紹介したい。これは一般的にドイツ語で”Unwort des Jahres”と呼ばれており、私は一応「醜悪な言葉」と呼ばせて貰っている。

もっともこの”Unwort des Jahres”は単純な罵り言葉や低俗な言葉が選定されるのではなく、一見正しいようで偽善的な、悪知恵の効いた言葉が選定される傾向にある。この”Unwort des Jahres”は該当の年の世相を反映しているだけでなく、国の価値観を非常に良く表していると思っており、同様に選定されている”das Wort des Jahres”「その年を象徴する言葉」より個人的には注目している。

さて、その2021年の”Unwort des Jahres”はPushback”と言う英語に決定した。基本的に何かを押し戻したり、後方に動かすと言う意味になるのだが、ここでは難民を違法に押し戻す行為が対象になっている。

昨年はベラルーシからポーランドを経由してドイツを目指す難民が多く、これらの難民の多くはポーランドで文字通り押し戻された。厳密に言えば国境で押し戻すのは国際的には合法らしいのだが、一旦EUに入った難民は難民申請する権利があり、これを無理矢理押し戻すのは違法となる。これがいわゆる”Pushback”と呼ばれている。

2015年の難民危機時にドイツは多くの難民を受け入れて以降、さまざまな反対がありながらも難民や移民を積極的に受け入れる国になった。難民の違法な強制送還に対しては悪と言う価値観が根付いており、これを一見すると格好良さげな英語で表現する事で誤魔化している点が、今回”Unwort des Jahres”に選ばれた理由だろう。

更に今回次点として審査員が挙げた言葉が”Sprachpolizei”である。これは”Sprache”「言語」と”Polizei”「警察」の合成語であり、適切な言葉使いや表現を勧奨する人々を揶揄する言葉である。要するにこれらの人々を「警察」と呼ぶことで、言葉使いに難癖つけたり取り締まったりする面倒な人だと揶揄しているのだ。日本でも「自粛警察」と言う言葉がコロナ禍で出現したが、場面が違えど似たような意味合いだろう。

確かにこのような日本における自主的な自粛取り締まり行為に関しては、幾つかの例を見聞きする限り、かなり過剰で個人的には如何なものかと思っている。しかし、このドイツにおける”Sprachpolizei”に関しては「警察」と言って揶揄するとかえって世間の非難を浴びると思った方が良い。

最近は男女同権や外国人差別に敏感になっただけでなく、更にはコロナ禍で政府をナチスや独裁政権に例える表現が乱発している事が背景にある。例えば黒人のことをは以前から”Neger”と呼ばないし、ユダヤ人も”Jude”とは呼ばない。差別表現になるからだ。ワクチン接種を推奨する政府は”Impfnazi”「ワクチン接種ナチス」などと一部では言われている。

もちろん、使う言葉にいちいち難癖付けられたら、それはたまったものではないが、個人的には無意識でも差別的な表現や余りにも程度の低い俗語、あるいはナチス関連の言葉は使わないように気をつけている。