昨日はロシアW杯予選、ホームでチェコとの対戦だった。おそらく同グループで最も難敵と目されるチェコだったが、ドイツはほぼ完璧と言って良い内容で3ー0で勝利した。この試合における私の最大のハイライトは、DFでありながらその驚異的なパス能力でチェコの守備陣を切り裂いたマッツ・フンメルスである。
昨日の試合の前半、チェコは勇敢にも中盤でプレスを仕掛けドイツのボールを奪いにきたが、これをあざ笑うかのように翻弄したのがドイツのセンターバックのフンメルスとボアテングの後方からの長いパスだ。
特にフンメルスのパスの精度とその質はDFとしては傑出していると言って良い。両足を苦もなく扱い、そのキックの種類も豊富だ。高い位置どりをするチェコのサイドバックの裏に正確なロングパスを通したかと思えば、中央バイタルエリアへの強いグラウンダーのパスもビシバシ通す。
更に圧巻は中央で相手DFの裏に抜け出したマリオ・ゲッツェに最終ラインから右足のアウトサイドで見事なパスだ。これは不当にオフサイドに判定されたが、正当に判定されていれば完璧なビッグチャンスだった。
テレビだと分かりにくいが、間違いなく彼はそのパスの精度だけでなく、強さや回転なども極めて高いレベルで使い分けている。そして何よりフンメルスはその姿勢とフォームが美しい。屈強な身体つきだが、エレガントという言葉がピッタリの選手だ。
ところで、最近テレビでサッカー中継を観ていると、”überspielte Pässe”という新しいスタッツを目にすることがある。私はこれは日本語にどう訳して良いか分からないが、要は出したパスで相手選手を何人抜き去ったかという指標のようだ。
私の理解が正しければ、例えば上記に挙げたフンメルス→ゲッツェのパスのように、最終ラインから最前線に相手DFの裏にパスを通し、受け手の眼前にGKしかいない状況のビッグチャンスになった場合、この一本のパスで10人の相手選手を抜き去ったことになるので、これでüberspielte Pässeは10という数値になる。逆に相手の眼前で横パスやバックパスの場合、数値は0となる。これはパスの質を表す指標として今年のユーロ2016あたりから解説に利用されている。
そして、この項目で最も優れているドイツの選手は他でもないトニ・クロースだ。クロースはそのパスの正確性でも世界でも屈指の存在だが、そのパスの効果や質から言っても優れた選手なのだ。つまり、ドイツの攻撃を抑え込むためには、まずこのクロースを抑え込むのが定石となる。
事実昨日のチェコもクロースのパスコースを塞ぐように中盤で守備をしていたが、昨日は完全に囮だ。クロースは例によってボールタッチこそ多かったが、昨日は横パスやバックパスでゲームの組み立てを後方のフンメルスとボアテングに委ね、これが完全にハマったと言える。そしてDFでありながらこのような戦術を可能にするフンメルスとボアテングの傑出したボール配給能力はドイツ代表の極めて大きな武器だろう。
昨日は前半で守備陣を完全に崩されたチェコは後半1点ビハインドにもかかわらず後半は守備ブロックを固めてきた。しかし、ドイツは10番エジルを中心に定石通りサイドからの崩しに成功し2点を奪って勝負を決め、余裕で試合をコントロールして勝利した。気が早いかもしれないが、ドイツは今回の予選はあっさりとW杯出場の切符を手にするだろう。